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《愛撫の先に…②》
第8章 わだかまり…
ガサッとした物音の玄関から左手側に恐る恐る歩き出す。

ニャア〜。
猫の砂利を踏む音と鳴き声に安堵ししゃがみ込み空を見ながら立ち上がり回れ右した瞬間、奈々美は悲鳴をあげ慌てて口元を押さえる。

窓や壁に黒いペンキで妊娠おめでとうと書いてあったからだ。
それは刷毛で楽しく書きなぐったようであちこちに黒く飛び散った跡が点々とあり、文字から数センチ垂れ流したよう。
砂利にも黒いペンキの跡が所々に。

ぐるっと家の壁を確認するとセックス・この家は俺の・受精等と書いてあり奈々美はヨロヨロと壁に手をついた。
ペンキは月曜日に書かれ数日なので手に付きはしない。

『…なんて事を…』
彼女は壁を見上げ悔しさと申し訳なさから泣いた。

ニャア〜。
先ほどの猫が奈々美の側で鳴き向こうに行く。

あたしも猫になれたら…
こんな卑猥な文字もわからずに歩いてこの場を離れられたのに…

たまごホリックの男がこの家に…!
俺の家だなんてよく言えたものねっ…
結城さんの家がめちゃくちゃにされてあたしは申し訳なくて…

妊娠おめでとう、セックス、この家は俺の、受精…そんな卑猥なっ
周りから結城さんがそんな変態だなんて思われたくないっ!

奈々美は急いで鍵を開けガムテープを持ち鍵をかけ家の持ち主である証の結城という文字をガムテープで隠した。

何もしていないのにドクンドクンという心臓の音、震える手で彼女は立ちつくしたまま。

陽子助けて…

この家には怖くて入れない…
何処に行けばいい?

その時車が止まるかすかな音がして彼女は望みを持って顔をあげた。

陽…
結城…さん…

顔は見えなくとも車種とシルバーの色で結城だとわかるのだ。

『奈々美っ!!』
車からおりて走ってくる。

『どうして…どうしてここに…?』
彼女は再び座り込んだ。

『陽子さんから様子をみてほしいとメールが入った、まったく君は…俺にフロント業務をすっぽかせというのか?』
頼んで出てきたらしい。

『あたし頼んで何か…』
頬に伝う涙を拭う。

『この卑猥な落書きを君に見せたくなかった、もちろん書いたのは俺ではない…だから迎えに行くと俺は頑なに…落書きを消した上でこの家の契約は解消する…』
彼は落書きをみて舌打ちした。

『解消…』

あたしのせい…

『スイートタイムが俺の居場所だから』
彼は彼女の手を握り立たせ車へと促した。

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