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《愛撫の先に…②》
第8章 わだかまり…
奈々美は結城の手を振り払おうと手首を左右に動かそうとしたが彼に握られた手のひら等1ミリもずれない。
『離してっっ』

『スイートタイムに着けば離してあげます、これ以上勤務に穴をあげたくないので帰りますよ』
結城は奈々美が抵抗するのを無視するかのように車へと歩きだす。

『あたしなんか構わないで、翔子さんがいるのに』
彼女は駄々っ子のように叫んだ。

『しつこさもここまでくると度が過ぎますっ……何に意地を張っているのか…担ぎあげて乗せないと君は車に乗らないのか?…フロント業務に穴をあげたくない、今からが一番忙しい時間帯だというのに』
後部座席のドアを開け彼は彼女をシートへと押し込むように押した。

フロント業務に穴をあげたくないという結城はハンドルを左にきり停められたとこから左へと進み左折を2回繰り返しスイートタイムへ続く道へと加速させる。

ゆっくりと起き上がりシートに座りシートベルトを締める奈々美はあの場所からこうして離れさせてくれた彼に感謝してもいいのに言葉が出てこない。

何故結城さんはあの卑猥な落書きをみても何も感じないの?
知らん顔で業務に穴をあげたくないと涼しい顔で言えるの?
あなたには翔子さんがいるのに……
彼女はそこで先ほど言われた言葉を思い出す。
【しつこさもここまでくると度が過ぎます】
でもっ、でもっ、結城さんはあたしに内緒みたいにコソコソと翔子さんと話をしているのに………
しつこいってあたしは翔子さんを思い出すと腹がたつのよっっ

『…奈々美?着きましたよ、仕事で疲れているのはわかりますが車から降りてもらえるとありがたい、フロント業務に戻らなくては……』
従業員駐車スペースに車を停め奈々美が降りるのを待ちながら彼はネクタイ等曲がっていないか今一度確かめていた。

あの落書きをみて冷静で何処まで大人なんだろう…
所詮あなたは身体の被害を受けていないからだわ、女はいつも性被害の犠牲者…

車からよろよろと降りる彼女は何処か上の空。

『奈々美?』
訝しげに彼は彼女をみながら車から離れた。

『なんでもない』
彼女は首を振る。

結城は代わりに付いてくれていた従業員に詫びて宿泊のリストが明記されているパソコンに目を通し待つ利用客に優しい笑顔を向ける。
『いらっしゃいませ、ようこそスイートタイムへ』

その顔は蚊をも叩いて殺さないような優しいスマイル。
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