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New year
第1章 餅つき
威勢のいい声と、ぱちんッ、ぱちんッ、と何かを叩く音が聞こえる。
表で餅をついているようだった。

「引きずり餅か…もうそんな時期か…」

「年の瀬だなぁ…一年なんてアッと言う間だな」

「まことにの…解散してちょうど十年か…」

年の瀬になると、大抵の家は、餅つき職人を家に呼び、餅をつかせる。
この時期だけ注文に応じて餅をついて回る職人がおり、臼や杵などの道具一式を持参して、家の前でついてくれる。これを「引きずり餅」といった。

他に菓子屋に注文して餅をついてもらう「賃餅(ちんもち)」を頼んだり、正月用品などを売る「歳の市」で餅を買ったりして、正月の仕度をするのだ。

「鷺のおじさん、兵衛のおじさん!」

玄関から子供の声がした。
近所に住まう市八だ。

その昔、二人が属した盗賊団 陽炎は、頭の市九郎の死と共に解散したが、市八はその忘れ形見である。

母は、市九郎の情婦であった赤猫。
彼女は赤猫という通り名を、元の名であるサチと改め、今は静かに暮らしている。
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