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嫌いじゃなかったの!?
第7章 6ページ目。
それでも私は帰らなければならない
「佐伯さん…そろそろ…」
私が佐伯さんの名を呼ぶと佐伯さんは「わかってる」といって私を離してくれた
ベッドの脇に立ち、布団からしんどそうな顔をひょこりとのぞかせた佐伯さんを見る
こんなにしんどうそうな病人を1人にするのはすごく不安だ
「絶対安静ですよ?治ってないのに明日会社に来たら無理やり家に帰しますからね?」
私がそういうと布団の隙間から手が出て来て、佐伯さんの大きくて熱い手が私の手を包み込んで
「今日は迷惑かけてほんとすいません。またお礼させてください」
そういって静まり返る部屋
そして佐伯さんは苦しげに顔を歪めて、もう片方の手で顔を覆って
「やっぱ帰したくねぇな…」
そう言った
その言葉にまた、胸が締め付けられて私まで顔が歪んでしまう
「あたりまえだけど今日は帰すよ。俺が元気な時、また来て。でもさ…」
私の目をしっかりと見て、潤んだ瞳を私に向けて
「真嶋さんのなんかを置いていってよ。俺が寂しくないように」
そういってニコリと笑った
なにこの甘えん坊さんは…可愛い…
でも私は何を置いていけばいいのだろう。
め、メガネ?
いやいや、これは生活に必要なもの。
じゃあ何を置いて帰ろう。
カバンの中身を思い浮かべても何もない。
じゃあもう、形のないものだけれど…
「杏子を…。杏子を置いて帰ります。私のことは杏子って呼んでくださって構いませんよ。」
私には自身のことを「凌」と呼ばせるくせに私の名前を呼ばないことが気になっていた
恋人でもないのに、ただの同僚なのに…