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嫌いじゃなかったの!?
第11章 10ページ目。
人がいる中で、2人は、まるで恋人のように抱き合っていた。
遠距離恋愛をしていた2人が久々の再会。
そんな背景を思い浮かべてしまうほど、長く、抱き合っていた。
もはやその姿は恋人同士だったのだ。
周りの奴らが2人が抱き合っているのを見て何か言っている。
しかし、そんなものは耳に入らなかった。
今は何も考えられなかったのだ。
何も感じなかった。
ただ無だった。
そうでないと、発狂してしまいそうな自分がいて怖かった。
しばらくすると2人は体を離した。
その時、見えた杏子の顔を俺は一生忘れることはないだろう。
あんなに頬を赤くして照れて、恥ずかしがって、顔を伏せて
そして、少し不機嫌そうに佐伯を見上げてから、微笑んだ顔は、乙女のそれだった。
俺が見たこともない顔だった。
「帰ろう」
まだあいつらに会ってはいなかったが、そう決めた。
杏子と佐伯は腰を抱き合うようにして人混みに消えていった。
俺は、きた道、つまりは、2人とは反対方向に歩き出した。
いろんな思いが、頭の中で巡った。
今日の夕飯だとか、明日のお弁当の冷食の事とか。
しかし、涙が出そうになったのはそれのおかげじゃない。
ただ思ったんだ。
どうしようもなく突きつけられたんだ。
おれじゃあ敵わない。