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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
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考えてみれば、クラシック育ちのあたしがクラシック以外の楽器についても予備知識があったのは、音を奏でる楽器を理解しろという前社長のおかげだ。
文明の利器というべきか、今は簡単に様々な音が出る。
その代表格はシンセサイザーであり、これひとつでドラムの音でリズムも作れるし、エレキギターのチュイーンという音もつまみやレバーを動かすだけで再現出来る。セットされている音色の雰囲気も変えられる。
例えばオルガン。昔ながらのロックに使われているオルガンは、オルガンの音が一定の強さではなく、中心が抜けているような軽さがあり、パイプオルガンの重い音色とは違う。そのロックオルガンの音色を、もっと勢いが欲しいとなにかがギュインギュインと回転しているようなうねりをつけることも出来るし、鍵盤を押した瞬間から音をガツンと強く押し出したいか、徐々にじわじわといきたいのか、そういう微妙なところの設定も、シンセでは出来る。
音は周波数。だから音が作る各周波数の形を変えるのだそうだ。
ただどうしても機械の音だから、どんなにリアルに近づけても、そこにひとの温もりは感じられない。どんなに緻密に曲を作れても、生の音には敵わない。
だからこそ、音の専門家である早瀬は、管楽器は不明だけれど、すべての音を自分で奏でられるようにしたのだろうと思う。あくまで迫力あるバッキングのひとつとして。
その早瀬が、指が動かないあたしでが弾くのが難しい音が弾けるように作ってくれたが、一曲分のドラムのリズムも作ってしまっていたらしい。
――俺の曲、そんなに簡単!? なに簡単に凄いドラム作ってるのさ!
いやもう、早瀬だからだね、裕貴くん。
あたし大急ぎで、着ぐるみを借りてきたんだけれど。