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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
ドラムなりシンセのフレーズなりを自動演奏させ、それに早瀬と裕貴くんが合わせるのはいいとして、本番で微妙にずれていくことだってある。そうした時、どうすればいいのかと思ったが、そこに活躍するのが足のペダルらしい。
なんと音の早さに合わせてペダルを踏めば、その速度によって自動演奏しているものの速さも調節出来るものらしく、よくある音を伸ばすためのペダルの活用はしないらしい。
つまりピアノソロみたいなメロディアスな旋律の速さすらも、ペダルで統制できるという、なんという優れものなんだ、ローランド!
ローランドは電子ピアノを出しているからよく知っているメーカーだ。
ピアノ系の音が強いと聞いたことがある。
まあそんなんで、コードにそった音の鍵盤であるのなら、どこを弾いてもそれらしいメロディとフレーズが自動再生されるけれど、和音とオクターブが必要であるのなら鍵盤の左側中心の割り当てに。ブラスやストリングスなど華やかに飾る音色(音の厚み)が必要ならその1オクターブ右。一番の右側のオクターブには、早瀬の即席アドレブのフレーズが記録されている。
さすがローランド76鍵、古かろうが同時再生出来る音源も半端なく。
曲のどこにどんなものを使うのか、そこはあたしの裁量に委ねられたたが、割り当てられていない鍵盤もあるわけで。
弾けないのをわかっているくせに、だからシーケンスなんて使ったくせに、それでもあたしがピアノを弾くことを前提にしているのが、なにか悔しい。
黙々と、ただひたすら黙々と。
ドラムのリズムがリピートし続けている中、ちょっと休憩しようと顔を上げ、そして気づいた。
「………」
――部屋に、りすがいる。
確かにあたし、じゃんけんで勝ったけれど。
確かにあたし、可愛いりすくん勧めたけれど。
ウサ子より大きいりすが、ドラムに合わせてベースを弾いている。
長すぎた元の人間の足はどう見ても短足で、高い位置にあっただろうお尻はだぶだぶと下に垂れ、無駄にフェロモンを振りまいていたお美しいお顔は、思わず微笑んでしまう愛嬌がある大きなもの。
手だけは早瀬の長い指を出しているけど、ちゃんとふさふさ尻尾もつけていた。
……なんであたしみたいに、早々に頭もすべて着てしまったのだろう。
そんなに気に入ったんだろうか。