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エリュシオンでささやいて
第15章 Approaching Voice
「……信じられない。まるで夢でも見ているよう。柚、あんた……運転、下手すぎ!」
……小心者のあたしに、運転の適性がないことは自覚している。
さらにはまたもや運転する車は、須王の超高級外車だ。
「全然車が動いてないじゃない! アクセルやブレーキを知らないで、まさか裏口から免許とったんじゃないわよね!?」
「ち、違います……。仮免にもちゃんと……合格して……」
「だったらなんてこんなにド下手なの!? わかる、この車……外を歩くカラスに追い抜かれているのよ!?」
苛立った女帝にキーキー叫ばれ、運転席をボカボカ叩かれるわ、須王には呆れ返られるわ……あたしは涙目。
……急いで発車させたいのは山々で、あとはアクセルをぐぅんと踏み込めばいいだけなのだけれど、それが怖くて思いきりいけない。
自分では勇気を出してスピードを上げているはずなのに、窓の外では地面を跳ねるようにして歩くカラスに追い抜かれている。
あたし、その気になれば運転も成長出来るものだと思っていたの。
それに色々と車に関しては、スリリングな経験もしていたから、度胸がついたとばかり思っていたのに、勢いをつけても運転はてんで駄目だった。
「また、カラスに追い越された!! これなら自分の足の方が早いわ」
よ、よし。もう少し、踏み込んで――。
意気込みすぎて思った以上に力が入ってしまった。
すると、ぶぉんと爆音をたてて車が暴走する。
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
もう、涙が止まらないよ。
怖い、怖い、怖い。
「柚、スピード出し過ぎ、ブレーキ、ブレーキ。柚――っ!!」
さらには、そんな暴走車に散歩中だったカラス達は憤慨したようで、なんと車にむけて飛んで来て、カツンカツンとくちばしで車体やガラスを突きだしたのだ。
高級外車に傷つけるなー!!
なんとかブレーキを踏んで車を停め、涙をだらだらと流しながら肩で息をする。鼻水もとまらないため、ポケットのティッシュで鼻をかんだ。
すると、アホーといい声で鳴いた(ように思えた)カラスは、集団でまた悠々とお散歩を再開した。