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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「……上原?」
「………」
「なんか言えよ。いつもみたいに、〝嫌い〟でもいいからさ」
「………」
「……言ってくれよ。お前の声を聞きたいんだ」
顔を見たい。
どんな顔で言っているの?
お願いだから嘲笑って、悪い男でいて欲しい。
不遜で強引で、あたしをただ困らせるだけのなに考えているかわからない王様に。
早瀬を拒絶し続けた九年を、揺らがせないで欲しい。
そんな、懇願するような声を出さないでよ。
胸が苦しいの。
封印したはずの早瀬への恋心が、またじりじりと再燃しそうで、怖くてたまらないの。
嫌だ。
またあんなに苦しくて、辛い思いはしたくない。
それなのに、どうして。
どうして、信じたいと思うの?
九年前、なにか事情があったのかもしれないという甘い期待は、捨てたはずだったのに。
エリュシオンに来るまで音沙汰無かったのに、どうして今、そんなことを言うの。
どうして、早瀬はあたしが好きだった姿が本当で、今もその姿を持っているのかもしれないとまで、信じさせようとするの。
どうして。
どうして。
「頼む。柚――」
その時、前の演奏が終わった。
あたしは早瀬の手を離して、シンセを乗せたスタンドを持って、ひとり先にステージの方向に向かった。
涙で震える声を、あたしは早瀬に聞かせたくなかった。
あたし自身、泣いている理由が、わからないのだから――。