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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 


  *+†+*――*+†+*


「32番、予定を変更して俺……宮田裕貴が作詞作曲、ギターパートとボーカルをさせて頂きます」

 薄暗くなった屋外、スポットライトを浴びた裕貴くんの、凛とした声が響き渡る。

「りすとうさぎと、精一杯やりたいと思います」

 裕貴くんはあたしと早瀬を見て、緊張に強張ったような顔で笑い、審査員の方を見た。

「正直、俺は人間不信となり、音楽をやめようと思いました。しかし、そこから引っ張り上げてくれた、見ず知らずのあのうさぎとりすに背中を押して貰い、ここに立っています」

 裕貴くん……。

「信じていた手を払われ、どんなに苦しくて不幸のどん底にいても、必ず差し伸べてくれる手や声がある。そう信じさせて貰った俺は、苦しみの最中で戦う幼なじみと、そして言葉ですれ違う不器用この上ないりすとうさぎに、この曲を捧げたいと思います」

 泣くまいと思っているのに、自然と涙がこぼれ落ちる。

 口が悪い裕貴くん。
 だけど、早瀬の言い方に悪気がないと必死に教えてくれた裕貴くん。

 ギターを壊して音楽を辞めようとするまで、きっと誰より深く傷ついていただろうに、今の裕貴くんは自分の恨みを晴らすというよりは、赤の他人であるあたし達のことを気に掛けてくれている。

 裕貴くんの方が大人だ。

「ちょっといいかね?」

 年配のちょっと目つきの悪い男性審査員から質問が出た。

「これはコンテストだということをきみは知っているかね?」

「はい」

「それなのに、私達ではなく違う人間に聞かせたいというのかね?」

 就職活動の面接官もそうだけれど、時に審査をする側の人間は、威圧的に押し出てその者の反応を見ることがある。

 ここで裕貴くんが慌てふためき、動揺したために音楽に乱れが出てしまったら、それだけの人間だと思われて終わるだけだ。

 人材など数多くある。その中で本番に弱い者が脱落しても、それはただのふるいにかけて落ちた人間のひとりにしか過ぎない。

 裕貴くん、動じないで。
 お願い。真っ直ぐな心で受け答えして。
 
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