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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「早瀬くんだと?」
「はい。早瀬さんの曲は全部弾け……早瀬?」
裕貴くんも考えている。
裕貴くん、あなたが尊敬しているのは後ろのりすよ、りす!
「なあ、皆さん」
おじいさん審査員は、他の審査員に言った。
「かつて早瀬須王も、作曲のコンテストにおいて同じことを言いました。〝音楽は心を伝えるもの〟であると。私はその時、早瀬くんの審査をしておりました。そんな彼は音楽界の第一人者となった」
あたしは思わず早瀬を見た。
りすは大して気に留める様子もなく、他人事のようにして、ベースを弄っている。その中の顔はどうであるのかわからない。
音楽に妥協無く、ぱっと閃いて素晴らしい音楽を作る彼が、そんなことを思いながら音楽を作っていたなど知らなかった。
――同情じゃねぇよ、なんのために俺が音楽やってると思ってる。
ねぇ、早瀬。
――俺、お前に音楽を楽しいと思って欲しいんだ。
――それでも今、一緒に音楽をやりたかった。昔みたいに。
なぜ、あなたは音楽をしているの。
どんな心を伝えていると言うの。
――俺にだって……伝えたい言葉はあったんだ。
それは音楽と関係あるの?
「あの時の彼の目と、今の宮田くんの目と言葉の強さは似ている。生意気だと却下するのではなく、その音楽をまず聴いてみようじゃないですか。伝えたいものがあるという、彼の音楽を」
おじいさん審査員はにっこりと裕貴くんに笑った。
「きみが伝えたいという心を、審査員であるかは関係なく、聞いている私達にも届けてくれるかね?」
ああ、物わかりがいい裕貴くんもまた、言葉が不器用で。
最初から、そういえばよかったんだね。
審査員だからと、聞く者を拒絶してしまったから審査員は気分を害したのかもしれない。そこをあのおじいさん審査員が、取り持ってくれたのだ。
いい審査員が来てくれた。
「俺の言葉が足りませんでした。はい、立場は関係なく楽しんで頂けたら嬉しいです」
裕貴くんがあたし達に振り返り、笑って見せた。
あたし達は準備はOKだと頷き合う。
伝えたい音楽がある――。
それは裕貴くんだけではなく早瀬も。
そして、あたしもある。
奏でる音がどうか救いになりますよう。
あたしにとっての、天使の歌声になりますよう。