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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 
 
 あたしは、シンセの左端の鍵盤を押して、ドラムのリズムを再生する。
 早瀬が打ち込んだドラムは、大きなアンプを通して広がりを見せながらリズムを刻んで。

 早瀬が弦を親指で何度も叩きつけてから、引っ張っるようにしては叩くという、ひと昔前まではチョッパー奏法とも呼ばれていたスラップベースをそれに乗せてくる。

 早いのに安定した低音。それをエフェクターでビヨンビヨンと跳ねるような効果を出して。

 早瀬と裕貴くんが頷き合うようにして、裕貴くんのギターが乗った。

 やがて裕貴くんに頷かれてあたしは1音を押す。

 それを合図に、ベースとギターとシンセが、変拍子のようだけれど特異な四拍子のメロディアスなフレーズを、同じ調子で合奏して弾いてくる。

 寸分の狂いもなくぴったりなリズム。
 合同練習なんて大してしていないのに、シンセと弦楽器の音を聞いて、それに合わせるというふたりのリズム感が、あまりにも爽快すぎて、めちゃくちゃ楽しくなってきた。

 やがてそれは、あたしのシンセだけが同じ音程のフレーズを繰り返す中、早瀬は音階が下がり、裕貴くんは音階が上がるように動いて、派手にハモっていく形となる。

 裕貴くんのギュイーンというギターの音を合図に、リズムは同じだけれどあたしの鍵盤を押すことでブラスの音とストリングス系の音が付加されて、早瀬と裕貴くんに頷いて見せれば、和音だけのAメロに入る。

 ~♪

 ……正直、裕貴くんの歌声はあまり期待してはいなくて。

 それがどうだ。
 彼は歌までこなす。

 ややハスキーな声量あるその声音だけで、シンセで他の音色も纏っているような音が響いている錯覚に陥る。

 この子、本番に強いんだ。

 乱れぬギターの旋律。
 揺れない歌声。

 早瀬、この歌声……どう?
 ねぇ、ひとをぞくぞくとさせる歌声じゃない?
 純正律、裕貴くんいけそうじゃない?

 りすを見たら、りすのベースのリズムが突然変わった。

 あたしにはわかった。

――俺の曲調に柔軟に対応出来る奴を見つけ出せ。どんな曲でもこなせる奴を。

 これは裕貴くんの実力を認めたがゆえの、早瀬流のテストなのだと。
  
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