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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 

 楽しい。
 とても楽しい。

 あたしが間違えても、すぐ早瀬がベースでフォローしてくる。
 早瀬がずっとソロを弾くと、裕貴くんが怒ってギターを割り込ませて。

 ねぇ、審査員の皆さん。

 あたし達は、一時間前はこんなに仲良くバンドが出来る状況にはなかったんです。裕貴くんは音楽をやめようとして、あたしは指が動かないから鍵盤を弾こうなんて思わず。

 それを強引な早瀬によって、ここまでの曲になりました。
 
 楽しいと感じて貰えてますか?
 あたし達の音楽で、うきうきするような高揚感を一緒に感じて頂けてますか?

 完成度高い同じ曲に、ここまでの楽しさを感じましたか?

 ゼロから始めたあたし達。
 それでも皆で力を合わせれば、どんな困難でも乗り切れるという力を、あたし達は証明したいのです。

 音楽は権力や金でどうこう出来るものではない。
 奏でようとする者が音楽を愛する限り、愛ある音楽が生まれるんです。

 それが、聞いているものの心を支える、至高の音楽になる気がするんです。

 あたしは早瀬が大嫌いでたまらなかった。
 だけど早瀬の音はあたしを支えてくれている。

 ひとりで苦しむなと。
 自分が傍にいるよと。

 ……それが、指が動かなくなったあたしにとって、どれだけ心強いことだろう。

 目を瞑っても、心地よい早瀬の音に溢れている。

 どこにも、あたしが拒絶していた早瀬はいない。
 昔ながらの、あたしが心を許した音があるだけだ。

――音楽を楽しんで貰いたいんだ。

 早瀬がいる。
 傍で早瀬があたしの手を取り、立っている。
 昔のように肩を並べて立っている。

 あたしが九年間望んで望んで、だけど叶わなかったあたしの早瀬への想いが、音楽となり形となる。

 耳から染まる早瀬の音が、あたしを九年前に戻していく。

 溶け合いたいよ、早瀬。
  
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