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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
あたしあなたが好きだったの。
あなたに裏切られたくなかったの。
あなたに愛されたかったの。
こんな風に、傍にいて貰いたかったの。
ねぇ、教えて。
理由があるのなら、どうしてあんなことを言ったの。
どうしてあたしから離れていったの。
ねぇ、須王――。
「柚っ」
裕貴くんの声で、はっと我に返る。
ギュイーンとギター、最初のメロディに戻る合図だ。
慌ててあたしは、その鍵盤を押した。
ギターとベースとシンセが一体になる。
僅かなずれもなく、ひとつになる。
そして――。
「ありがとうございました」
審査員から拍手がおこった。
それはあのおじいさん審査員だけだった。
「楽しかったよ。勇気を貰ったよ」
複雑そうにしている他の審査員。
満場一致の拍手を貰えるほど音楽は甘くはない。
それでも、ひとりでも心に残る音楽になったのなら、全力を出して、そして楽しんで演奏したあたし達は満足だ。
だけど、楽器を片付け終えた裕貴くんは――。
「終わ、終わっちゃった」
両目から大洪水。
初めての舞台だった十七歳。
緊張も無くなって座り込んでしまっている。
「ご苦労様!」
あたしはうさぎのままで、裕貴くんの頭をよしよしと撫でた。
「柚、ありがとう。俺、すごく楽しかった。だから終わってなんだか、涙が止まらなくて……ああ、くそっ!!」
「凄く格好よかったよ、裕貴くんのギターも歌声も。あとは審査……」
「審査は見ないでもわかる。あのりす、ベーシストでもねぇのにあれだけのテクもってるのなら、俺、課題が山積みだと思うから」
「裕貴くん……」
「あれ、りすおじさんは?」
「え? あ、あそこに居るよ。なにぼけっと突っ立っているんだろう。表彰式もう始まるのに。ちょっと連れてくるね」
表彰式はステージに全員が並ばないといけない。
それなのに、りすがステージの袖で後ろ向きになっているのだ。