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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「早く。なにやってるんですか、始まっちゃいますよ?」
腕を引いて、一緒に歩く。
「……ありがとうございました。あたし、音楽好きです」
しかし反応がない。
「あの?」
……冷たいな、この男。
表彰式が始まったから、慌てて早瀬と列に戻った。
五位から名前が呼ばれていくが、バンド名『裕貴と森の音楽家達』の名前が呼ばれない。この名は、勿論あたしが名付けた。裕貴くんは嫌がったけれど、結局いい名前が思いつかなかったみたいで、あたしのが命名したものにしたようだ。
「一位」
あたしは神に祈る。
「『Sweety Love』!」
しかし選ばれたのは、あたし達ではなく。
そして、女帝の弟達でもなかった。
あたしの前に歌っていた女の子の居るバンドだった。
女帝の弟が選ばれなかったのは不幸中の幸い。
それは裕貴くんには慰めにもならないだろうけれど。
「この度は、審査員特別賞を設けることになりました。どうしても、賞から外すことが出来ない、心に残る素晴らしい音楽があったのです」
そうマイクで話したのは、おじいさん審査員。
「『裕貴と森の音楽家達』」
呼ばれた。
「裕貴くん、呼ばれた!」
「皆さん、前に」
「裕貴くん、呼ばれたよ。さあ、行こう」
呆然として固まる裕貴くんの腕を掴んで、おじいさん審査員のいる場所まで歩く。
「音楽とはなにか。それを言葉と音楽で伝えようとした、そこに評価を……」
「ちょっと待って下さい!」
異議を唱えたのは、どこからかの列の男性だ。
「どうしてパクった音楽が評価されるんですか! 俺達の曲を盗作したんですよ、犯罪ですよ」
顔は見えないが、女帝の弟だ。
パクったのが裕貴くんだって?
「そんなのが特別賞になるのはおかしい。なんですか、金でも渡したんですか!?」
むかつく。
あんた達でもあるまいし!