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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「黙りなさい」
おじいさん審査員が、低い声で威圧的に言った。
「違う音楽でした」
「は?」
「私の耳には、全く別な音楽として聞こえましたが。仮にどちらかが盗作をしたとしても、私達審査員は素晴らしい音楽を選ぶだけ。あなた方が選ばれなかったのは、彼らより評価されなかったということだけですね」
「……っ」
ありがとう。
本当にありがとうございます。
音楽を愛する裕貴くんの純粋な心は、審査員に届いたんだ。
特別賞なんて、凄いね。
「以上で……」
「おかしい!!」
声をあげたのは、ステージ下からだった。
なにやら派手なスーツを聞いたおじさんが、怒り心頭のようだ。
「なぜ私の息子は選外なんだ!! だったら特別賞でもいいじゃないか」
……この無駄に整った顔立ちは、うん。女帝のお父さんだな。
MSミュージック社長。
つまり、裕貴くんの仲間を金かなにかで買収した人物。
「瀬田さん、ここでの入賞は、売れる人材のはずだ。ビジュアル音楽性、なんでそいつらよりも劣るというんだ!!」
「売れるか売れないかは、ここにいるスカウトマン達の目とその後の訓練次第。私の目には狂いはないと思いますぞ」
瀬田さんと言うらしいおじいさんが、きっちりと反論してくれる。
「だったら! このゲテモノ揃いの奴らの音楽を売り出したいと思う奴らはいるのか!? 手を上げてみろ!」
そんなこと、しなくたっていいじゃない。
あたし達は頑張ったんだ、それをどうこう言われる筋合いはない。
「誰もいないじゃないか! 大体こんな奴らは「ここにいるとしたら?」」
この声――。
え?
「私がプロデュースしたいと言ったら?」
ステージの下から現われたのは――。
「早瀬さんっ!!」
早瀬須王、そのひとだ。
無駄にフェロモンを撒き散らす、りすの姿ではない彼。