この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「本当に、あいつらから助けて下さり、ありがとうございました。俺、技術不足を痛感しました。だから一からまた、メンバーを募って今度は……」
すると早瀬は薄く笑いながら言った。
「おいおい。俺がお前を推したのが、あいつらを制裁するためだけと、本気に思っているのか?」
「え?」
「俺はプロデューサーとして、お前の音をまた土に埋もれさせるには惜しいと思った。お前の音は、俺の音に似ている。最初は俺の模倣から始まったんだろうが、それでも今のお前は、お前なりの音楽に昇華しようとしている。そこを評価して、これからも俺がお前を鍛えてやろうとしているんだ。光栄に思えよ?」
あくまで上から目線の不遜な王様は、それでも嬉しそうにただの早瀬須王として笑った。
「……っ、ほ、本当?」
「確かに技術不足はある。リズムも不安定だ」
「う……っ」
え、安定してあたしの耳には聞こえていたのに。
「すぐにデビュー出来るまでには至ってはいねぇが、俺がみっちりしごいてやる。言っておくが俺は音楽に妥協しねぇ。俺が納得するまでどれくらいの時間がかかるか俺もわからねぇが、それについてこれるというのならの話だ」
裕貴くんの頭が、高速度にてぶんぶんふと縦に振られる。
「卒業まで高校を留年するのは許さねぇ。音楽と勉強、ちゃんと両立させられるか?」
さらにぶんぶんと、超速ヘッドバンギング。
そして――。
「ついていきます、りす王さま。もう……大好きなあんたの音楽をしこまれるのなら、なんでもしますと言う感じ!」
「お前……『り』は余計だろ!?」
「りすと言えば……」
瀬田さんが割り込んでくる。
あたし達は三人、ぎくりとする。
「あのベースも素晴らしかったね、プロだったのかな」
瀬田さんは、後ろにぽつんと立っているりすではなく、早瀬に向けて言った。疑問ではなく、確信しているかのように。
「プ、プロは参加資格はないでしょう……」
あの早瀬がやりこまれている。
「ではあのりすは何者かね? うさぎさん」
瀬田さん、あたしに振る!?
「も、森の音楽家です」
すると瀬田さんは、皺の多い顔でふぉっふぉっと笑った。