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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 

「本当に、あいつらから助けて下さり、ありがとうございました。俺、技術不足を痛感しました。だから一からまた、メンバーを募って今度は……」

 すると早瀬は薄く笑いながら言った。

「おいおい。俺がお前を推したのが、あいつらを制裁するためだけと、本気に思っているのか?」

「え?」

「俺はプロデューサーとして、お前の音をまた土に埋もれさせるには惜しいと思った。お前の音は、俺の音に似ている。最初は俺の模倣から始まったんだろうが、それでも今のお前は、お前なりの音楽に昇華しようとしている。そこを評価して、これからも俺がお前を鍛えてやろうとしているんだ。光栄に思えよ?」

 あくまで上から目線の不遜な王様は、それでも嬉しそうにただの早瀬須王として笑った。

「……っ、ほ、本当?」

「確かに技術不足はある。リズムも不安定だ」

「う……っ」

 え、安定してあたしの耳には聞こえていたのに。

「すぐにデビュー出来るまでには至ってはいねぇが、俺がみっちりしごいてやる。言っておくが俺は音楽に妥協しねぇ。俺が納得するまでどれくらいの時間がかかるか俺もわからねぇが、それについてこれるというのならの話だ」

 裕貴くんの頭が、高速度にてぶんぶんふと縦に振られる。

「卒業まで高校を留年するのは許さねぇ。音楽と勉強、ちゃんと両立させられるか?」

 さらにぶんぶんと、超速ヘッドバンギング。

 そして――。

「ついていきます、りす王さま。もう……大好きなあんたの音楽をしこまれるのなら、なんでもしますと言う感じ!」

「お前……『り』は余計だろ!?」

「りすと言えば……」

 瀬田さんが割り込んでくる。

 あたし達は三人、ぎくりとする。

「あのベースも素晴らしかったね、プロだったのかな」 

 瀬田さんは、後ろにぽつんと立っているりすではなく、早瀬に向けて言った。疑問ではなく、確信しているかのように。

「プ、プロは参加資格はないでしょう……」

 あの早瀬がやりこまれている。

「ではあのりすは何者かね? うさぎさん」

 瀬田さん、あたしに振る!?

「も、森の音楽家です」

 すると瀬田さんは、皺の多い顔でふぉっふぉっと笑った。
 
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