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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「なあ、早瀬くん。私も出来るだけ宮田くん個人の音楽の評価を正当にしてたつもりではあるが、きみが参加しているとわかっていて受賞させた責任がある」
「わ、わかってらっしゃったんですか!?」
早瀬が驚いた声を出した。
「ははは。勿論だよ、早瀬くん。きみと私の付き合いはどれほど長いと思ってるんだ。ひとはだませても私の耳はだませないよ。私はきみのくせがわかっている。わかっていながら、演奏していたきみの存在を闇に葬ることにした。失格だとわかっているだろうきみが、ひとのためには動かないきみが、それでもバッキングに立つということはよほどのことがあったのだと、私は思ったからな」
「……ありがとうございます」
「もしも三芳さんのせいできみの仕事に影響が出る時には、私のところに来なさい」
「そんな、瀬田さんにご迷惑は……」
「きみは私の息子も同然だ。困った時には素直に頼りなさい。きみが彼を見捨てられなかったように、私もきみを見捨てたりはしない。いいね?」
「……ありがとうございます」
いいひとだ、瀬田さん……。
「そこのうさぎさんも、我がお茶会に来るといい。まあ、白いうさぎであるのなら、時計をプレゼントした方がいいのかもしれないけどね。でも願わくばその時は、女の子の姿で来て欲しいものだ」
不思議な国のアリスにたとえたのだろう。
お茶目な瀬田さんは、片目を瞑って見せて、そして去った。
「やっべーな、あのひとには全部ばれてる。昔から敵わねぇよ」
早瀬が困ったように、だけど嬉しそうに言った。
「瀬田さんって、どんな方なんですか?」
あたしが尋ねると、早瀬はちょっと間を置いてから言った。
「お前の父親に縁を切られた、元友達」
え……。
「音楽界の大御所で、音楽に関するあらゆる協会の理事長をしている。元々は音楽を演奏していたとは聞くが、なにを演奏していたのか、それはわからない」
あたしの記憶では、うちに瀬田さんが来たことはなかった。
父さんの友達だったの?