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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「無鉄砲にひとり音楽界に飛び込んだ俺を、庇い育て上げて自由をくれたひとだ。欺瞞が多いこの世界で、俺が唯一安心して頼れたひとでもある」
ひとつ早瀬のことを知った。
早瀬と心で繋がっているひとの存在が。
……そうだよね、そういうひとはいるよね。
早瀬だって苦労して今の地位に来たものね。
そう思えど、なにか割り切れないもやもやとした気持ちが残る。
あたしの知らない早瀬の過去を、瀬田さんが知っていることに対してか、それとも早瀬が音楽で心を許している存在が既にいたということか。
あたしにもよくわからなかった。
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「いいの、本気にため口でいいの!?」
「ああ。今さらだ。お前はストレートな物言いがウリだろうが」
「うわっうわっ、俺、あの早瀬須王と……。遙に写メと共に自慢して……」
遙とは、入院中の幼なじみのことらしい。
面会謝絶ではあるが、LINEには既読がつくらしく、それならとあたしはうさぎのまま、早瀬と裕貴くんは人間の姿のまま、スマホで写メ。
「俺がりすになったことは言うなよ」
「えー、そこがいいじゃないか。あの早瀬須王がりすに……」
「名刺返せ」
「言いません、言いません! りす王さま」
「お前~っ」
さらに仲良しになった早瀬と裕貴くん。
裕貴くんは憧れのひとから音楽を教えて貰えるともうはしゃいで大興奮。
そんな裕貴くんの反応は、早瀬は満更でもないようだ。
「あの……ひとついい?」
「なんだ」
「レッスン料は、かなり高いの?」
裕貴くんの真剣な顔に、早瀬は笑う。
「勿論だ。俺のプロデュース料は高い」
「俺の、バ、バイトで賄えるように分割して貰える?」
すると早瀬は吹き出した。
「あはははは。お前には色々と気づかせて貰ったことがある。その礼で、出世払いにしてやる」
「タダじゃないの!?」
「お前は未来の音楽家になる予定だろ? そこは、無償ではなくギブアンドテイク、大人の関係だ。必ず音楽で稼いで俺に返せよ?」
「はいっ!!」