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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 

「ところで上原。お前、いい加減その格好やめろよ。なんだか馴染んで気味が悪い」

「あたし、これで帰りたいんですが……」

 だってあたしの顔、いつもよりブスに磨きがかかってるし。
 この上なく美しい奴と同じ空間に居たくない。

「駄目だ。俺の車には乗せねぇぞ」

「はい! だったらタクシーで……」

「嬉しそうな声を出すなよ、そこは〝じゃあ脱ぎます〟だろ!?」

「いやいや。違うだろう、どうしてそこで〝素の柚を車に乗せたい〟〝顔を見たい〟って言えないんだろうね……」

 裕貴くんがなにかを言ったら、ゲホッと早瀬が咽せた。

「ねぇ柚。りす王さんが、助手席に座る柚の可愛い顔を見て運転したいんだって。今日頑張って俺を助けてくれたりす王さんに免じて、それ脱いで車に乗ってあげて? そうじゃないと、……なんだか気の毒だからさ」

「裕貴っ!!」

「また、柚と会いたいよ。柚は俺の恩人のひとりだからな。次にりす王さんと会う時には、一緒に来て。一緒の空間にいるだけで、きっとこのりす王さんは喜ぶはずだしさ」

「おい、こらっ!!」

「あはははは。じゃあ今日はどうもありがとう。俺が帰らないときっと帰れないと思うから、これで帰る。柚、LINEするからね」

 そう、裕貴くんは去っていった。 

「……なんで裕貴とLINEするんだよ」

「え、なんとなく?」

「俺のを拒否しているくせに!」

「……今度から、拒否しません」

「当然だろう……え!?」

「うさぎを脱ぎますが、化粧室に籠もります。別にピーゴロゴロではないので、ご心配なく」

 敬礼して、バッグを持って化粧室に行く。
 唖然とする早瀬を残して。

 一度ついた傷は消えない。

 だけど痛みを感じる以上に、早瀬に助けられたから。
 早瀬に、楽しく鍵盤を演奏させて貰えたから。

 だからあたしも、少しずつ前を向いていこう。
 少しずつ、頑なだった心を柔らかくしよう。

 それがあたしの、感謝の気持ち。
 大嫌いの中に生まれた感謝の心を、早瀬に――。

 
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