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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「じゃあ行くぞ」
外はもう暗い。高級外車は赤レンガを後にして、まずは小林スタジオで、シンセとベースなど、借りた一式を返す。
奥から出てきたのは、あたしが借りた男性ではなかった。
だらっとしたトレーナーとチノパンの男性で、無精ひげを生やして、長い茶髪にタオルバンダナを巻いた……ガテン系。
顔立ちは整っているかもしれないけれど、ちょっとあたしが苦手なタイプの男性で、萎縮してしまう。
「よう。顔合わすのは久しぶりだな、須王。お、可愛い「小林は、昔俺とバンドを組んでいた時に、ドラムをしていたんだ。いまはスタジオで先生をしている」」
小林スタジオだから、小林さんはきっと責任者なのだろう。
「バンド……してたんですか」
「ああ。作曲の上で必要な研修だった」
「おいおい、なにが研修だよ、この野郎。ライブハウスに飛び込んできたお前に、いちから教えてやったのは誰だ? ちょっとメジャーになったからって偉そうにしてるんじゃないよ」
がははははと小林さんは、豪快に笑う。
野生の熊のような小林さんと、都会の狼のような早瀬はまるでタイプは違うが、早瀬の笑い顔を見ていれば、結構仲良しさんらしい。
「小林。本当に世話になったな」
「なんだよ、気持ち悪いな。お前、今までそんなにありがたがったことねぇじゃないか。いつも我が物顔で、ひと寄越して勝手に楽器持っていくくせに」
「特別なんだよ、今回は」
「へぇ……、特別、ねぇ……」
小林さんが、意味ありげな眼差しであたしを見た。
な、なんなんだろう。
じろじろと上から下まで見るから、本能的にちょっと身じろぎした時、早瀬が間に入り、片手を伸ばす。
「見るな」
まるで、美しい狼の威嚇。
「いいだろう。こっちは可愛い女の子に飢えてんだよ、癒やされたいんだよ」
「こいつは駄目だ。他をあたれ」
「ははは。なに、須王くん、マジ?」
「うるせぇな」
「まさか、この子?」
「ええと、あたしがなんなんでしょう?」
話が見えない。
あたしがなんだって?