この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「あたしに全財産かけるというから、驚いてしまって」
「いいんだよ。他の奴にお前を渡すくらいなら、金なんて惜しくねぇ」
どうしてしまったのかと思うのは、あたし自身だ。
どうして早瀬の言葉に甘さを感じて、ドキドキしているの。
柚っ、しっかりしろ!
「は、はは。女帝が聞いたら、泣いて喜びますね」
「なんでそこに三芳が出るんだよ。言っておくけど、三芳だろうが他の女だろうが、お前以外にはそんなことしねぇからな」
空気が――、
「お前だけだから。俺がそう思うのは」
甘ったるくて。
どこまでもベリームスクの濃度を上げていく。
まるで、あたしを特別だと言っているように思えて、胸がきゅぅぅぅと絞られるような心地がした直後、即座にありえないとあたしは頭を横に振る。
あたしが恋愛感情的に特別だとするのなら、その理由がわからない。悲しいかな、また魂胆があるのではないかと思ってしまう。
――俺の言葉で、絶対に傷つけたくなかった……この世で一番大切な女を傷つけてしまったから。傷つけなければならなかったから。
……大切だと言われても、恋愛の意味とは限らない。九年前のことを後悔しているのだとすれば、もしかして哀れんでいるとか?
〝この俺が特別にしてやると言っているのだから、それで手を打て〟とか?
頭の中に嫌なことが加速しながらぐるぐる回る。
「……おいこら、なにか言えよ」
焦れたような早瀬の声が聞こえる。
なにを言えるというの。
〝まあ、嬉しいわ! ありがとう〟
〝けっ、鏡を見てから出直して来な!〟
……あたしは答えがわからない。