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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「それは、そうと」
話題を変えるしかあたしには出来なくて。だけどそれすら予想の範疇内だったというように早瀬は言う。
「……逃げんなよ。俺が初めて、素直に口説いてるのに」
「初めて!?」
あまりの動揺は、シートベルトが止めてくれた。
「化け物みたような反応するなよ。そっちより、〝口説く〟という方を重要視して欲しいんだけど」
「いやいやいやいや。女に目が肥え、百戦錬磨の早瀬さんが、なにを仰る!」
このひと、なにとち狂ったことを考え出すの!?
この難解な思考回路が、天才の持つものなの!?
「百戦錬磨だったら苦労してねぇよ、裕貴に突っ込まれて方向転換するくらい無様なら、ちゃんと女口説く練習しておけばよかったとは思っているけど」
「あ、そうか。あたしで練習しているんですね!」
「お前を口説くのに、お前で練習してどうするよ? こんなに情けねぇところを見せても口説こうとしてるの、お前が相手だからだぞ。時間がねぇ中時間をかけているのに、まったくお前が俺になびいてこねぇから、俺から行くことにした」
そこから早瀬の確固たる意志を感じて、あたしはぞくぞくと悪寒を感じて思わず声を張り上げる。
「あたしがあなたになびかない珍種でも、あたしを口説かなくてもいいですから! 口説くのコンプリートしなくても、諦めて他に行って下さいって! 完全に時間と労力の無駄ですから!」
「……ほぅ? 俺がお前を口説き落とせないと言いたいわけか。それほどお前は、俺の口説きをかわせる自信があると? それくらい俺は、男とは思われねぇと?」
……詰んだ。
あたしの本能がそう告げた。
「予定変更」
突然早瀬はウインカーを出して右折した。
「なにがなんでも、お前に俺が男だと意識させてやる」
「はあああ!? あなたは男だとあたし、もう十分わかってますって! あなたを女だと思ったことは、一度だってありませんから!」
「性別上の問題じゃねぇんだよ! ああくそっ、自業自得とはいえ、なんでここまで難攻不落で、俺に即陥落させる経験値が少ねぇんだよ!」
「スピード、出し過ぎですって!! どこに向かうんですか、早瀬さん!!」