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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「はいはい、お姫様」
呆れているのか笑っているのか、王子様よろしく現われた早瀬が、腰が抜けたあたしをお姫様だっこ。
あたしと言えば、ふわりと浮いたのにまた驚き焦り、早瀬の首に手を回してしがみつきながら、出口から出る。
外では休める椅子もひとがいて座れなかったようで、早瀬はあたしを抱いたまま、乗客がいないメリーゴーランドの、三日月型の椅子に乗った。
まだ恐怖の余韻が残り、ぐすぐすと泣いて早瀬にしがみつくあたし。最初ぽんぽんとあやすように、定期的に軽く肩を叩かれたが、やがてその手が止まり、あたしの頭上に、なにかが、すり……と擦れ合った気がした。
なんだろうと上を向くと、眼鏡の奥でゆっくりと目を開いた早瀬と視線が合う。
目映いメリーゴーランドの照明が、まるで早瀬の後光のよう。
涙も止まり思わず魅入っていたあたしに、うん?というように少し顔を傾げる彼は、最初こそ笑みを浮かべていたものの、やがてその瞳を揺らし、顔から笑みを消して男の艶を強めて行く。
あたしを腕に抱いたまま、ゆっくりと顔が近づいてくる。
恐怖したからなのか、絶叫したからなのか、力果てて動けないあたしの顔に、早瀬の熱い息がかかる。
唇が。
九年前に一度重ね合わせた唇が。
至近距離となり、あたしの唇が自然と半開きとなった。
呼吸が止まる。
早瀬の衣擦れの音がして、あたしの視界は暗くなる。
そして――。
「そんな顔で見るんじゃねぇよ、屋外で暴走したらどうするんだよ」
コツンと、あたしの額に早瀬の額がぶつけられた。
「そんな顔?」
恐怖にぐちゃぐちゃになっていた顔のこと?
「……俺が欲しいっていう、女の顔」
やるせなさそうに笑う。
早瀬は、あたしを女として意識したというの?
「風が出てきたな。……シメに観覧車に乗るか」
あたしは……早瀬の唇が欲しいと思ったことを否定出来なかった。
吊り橋効果だと言い切れないものを、あたしは感じていたのだ。