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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
観覧車の発光はLEDで出来ているらしく、ゆっくりと色が変わる様を窓から見れるのは圧巻だ。
加えて、横浜という港町の光の洪水を上から一望できるこの贅沢さ。
さらには窓際に小さなモニターがついており、観覧車から見下ろす景色が地図上どこらへんのものなのか、説明がついている。
今の観覧車は親切なのねぇ……などと、ゆったりした観光客気分で乗るつもりだったのは、観覧車に乗り込む数分前。
観覧車は子供の時に家族で行ったっきり。学生時代は普通に、好きなひとと遊園地でデートして、一緒に観覧車に乗ったりして、きゃっきゃうふふと距離が縮まったら……など淡く期待を抱いた場所に、なぜか、よりによって、その学生時代にこっぴどくフラれた相手と来ているだけではなく、その男の膝の上で横抱きにされているという、屈辱的なこの体勢。
「もう大丈夫だから……っ」
「そんなへろへろのくせに」
「大丈夫だから、向こうに行って下さいってば!」
「やだね」
もう何度目かのお願いも却下されてしまう。
羞恥とおかしな照れまで入るものだから、あたしの心中、暴風雨のまっただ中。
必死に、鉛と化した下半身を動かして、向かい側に行きたいのは山々だけれど、動かない身体ならせめて早瀬の横に座ろうと頑張る。
椅子に手をついて、お尻を精一杯動かしたら、ちょっぴり下半身が動いた。
よしよしこの調子と、次も頑張ろうとしたら動かなくなって、頑張れ頑張れと心で激励しながらちょっとお尻を持ち上げたが、残念……沈没。
もう一回。柚、ファイト!!
「……お前さ……」
無視よ、無視。
あたしは頑張っている最中なんだから。
どけてくれない誰かさんの意地悪のために、あたしは必死なんだから。
よいしょ、よいしょ……。