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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「俺を男として意識してねぇくせに、どうしてそんなところばかり刺激してくるわけ? 誘ってるの、お前」
憮然と言い放つ早瀬。
「は? 誘う?」
早瀬の目が落とされる。
あたしのお尻がある〝そんなところ〟。
行きつ戻りつ、時に落下していた場所。
「な、ななな! わ、わかっていたら、あんたから動いてくれればいいでしょう!? あたし動けないんだから!」
「……ほぅ? 俺に怒るわけね、いい度胸じゃんお前。じゃあお望み通り、向こうに行くから」
早瀬がいとも簡単にあたしの身体を持ち上げるようにして、早瀬の身体の横におろすと、反対側の椅子に移動する。
そのまま静かに移動してくれればいいのに、わざと大きく揺らしていくものだから、いろんな意味で「落ちる落ちる」とぎゃあぎゃあと騒ぐ羽目となる。
何度も言うが、あたし絶叫系のアトラクションと恐怖のアトラクションは苦手なのだ。苦手だから腰を抜かしてるんだ。
見下ろす景色は、どのアトラクションよりも高点にあり、観覧車がこんなに怖い乗り物だとは思わなかった。
しかも揺れている観覧車で、向かい側の椅子に向けてではなく、横の窓側に頭、出入り口側に頭とお尻を向けている状態のあたしは、揺れる椅子の上で掴むところがなくて半べそ状態。
やっとあったと思ってしがみついたら、早瀬から差し出された手だった。
「戻って欲しい? まあ嫌だと言ったら、揺らすだけだけど」
「き、鬼畜「戻って欲しいのか、揺らして欲しいのか、どっちだ?」」
「も……、戻ってきて……くだしゃい」
屈辱と恐怖に最後がおかしな言葉になったけれど、早瀬は笑ってあたしの隣に腰を下ろした。
「始めからそうしてりゃいいんだよ」
早瀬はあたしの頭の横にどかりと座ると、伸ばした手を四つん這い状態になっているあたしの背に回した。これで落ちる心配はない、と思う。……多分。