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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
口に出して訊きたいのに、訊けない言葉。
呪いのように九年前のことは口に出来なくて。
今さら口にだしてなんになる?
過去のことを持ち出したところで、なにも変わらないのに。
「……だからさ、嬉しかったんだ。お前と遊園地に来て、こうやって観覧車に乗れたの。……初めて俺、即席だろうと自分で自分のプロデュースに満足したように思う」
無邪気な笑みを見せるあなたの本音はどこにあるの?
遊んでないというのなら、あなたにとって肉体関係がある女は、なんなの?
あたしはなんなの?
他の女にも、こんな話をしているの?
どんな顔を見せているの?
〝他に遊んでいない〟
〝初めてだ〟
〝嬉しかった〟
そうやって、何人の女を本気にさせてきたの?
あたしに謎の優しさを見せないで。今までのように難解で強引な方がいい。あたしの気持ちを無視された方が、あたしはごちゃごちゃ考えずに済むから。
あたしは、たくさんいる女のひとりだとわかってはいるけれど、あたしを口説こうというのなら、あたしも他の女と同じ存在なんだと思い知らされる。
他の女は、喜んだ?
他の女は、身体も心もすべてをあなたに捧げた?
それを受け取ったあなたは、どう思ったの?
嬉しいと思える女はいたの?
ああ、どうして――。
早瀬にとって他の女の存在を今、こんなに恨めしく思うの。
早瀬がその女とどんなところでどんなことをしていたのかなんて、なんで気になってしまうの。
まるで九年前みたいに。
もうそんな気持ち、ないはずでしょう?
なにその場限りの早瀬の言葉に、自分はもしかして特別かもしれないなんて馬鹿げたことを考えたの。
悲しくて苦しくて――。
「おい、なんで泣く?」
もうわけがわからない。