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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「夜景が眩しすぎたんです」
あたしはなにを考えるべきなのか、わからない。
今はウサ子ではないというのに、なんで泣いてしまったんだろう、あたし。
手の甲で拭って、反対側を向いて深呼吸をしようとしたのに、あたしの腕が引かれ、あたしの顔は早瀬の胸に押しつけられた。
ベリームスクの魅惑的な匂いが鼻腔に広がって、さらに泣きたくなる。
「……俺のことなんだろ。お前が泣くのは」
くぐもった早瀬の声が耳に届く。
……ため息が聞こえた。
「泣かせたくねぇのに、なんで泣かせてしまうんだろう、俺は。最初は泣いていても、俺のことを考えてくれているのならそれでいいと思ったけど、最近はお前が泣くのがしんどい」
「だったら、あたしを……」
「なんでここまでお前を俺に縛り付けているのか、話せれば楽だろうな。だけど俺が一番言いたい言葉を口にしないのが、お前を傷つけた俺なりの贖罪なんだ。だからお前を待とうとしていたが、それも出来なくなって。どうすればいいのかわからねぇけど、わかるのはやはりお前を離してやれねぇってことだ」
さらにぐっと抱きしめられて、あたしはものを言えなくなってしまった。
「……どうすれば、お前がずっと笑ってくれるんだろう。裕貴だったら、あんなに簡単にお前の気を引けたのに。考えれば考えるほど、墓穴掘ってる気がする」
裕貴くんになんでかライバル意識を持っているらしい早瀬。
「ここに裕貴が居たら、絶対裕貴に説教食らう……」
……思わず、笑いが込み上げて笑ってしまった。
「なんだよ」
少し緩めてくれたから、あたしは言った。
「裕貴くんは十七歳ですけど」
「だけどお前が、LINEのやりとりをすぐOKするほどにはあいつの方が上手だ。会ったばかりのあいつと俺、なにが違うんだ」
ぶちぶちと本当に文句を言っている早瀬に、どうしても笑いが止まらない。
なんなのこのひと。
わざと?
無意識?
これも演出と言うの?