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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 

「……ん? 返事ねぇってことは、いいってことだな?」

「……っ、い……っ」

 仕方がなく手を離した。〝嫌〟の声が途切れたのは、後ろから伸びた早瀬の手があたしの頬を掴んで上に上げたからだ。

 喉を曝け出した状態のあたしに、衣擦れの音をたてて、斜め上から早瀬が身を乗り出した。

「お前がずっと笑顔でいれますように」

 頬に添えられた手が、頬を撫でて。 

 上から覗き込むのは、優しい瞳。

「ふたりで、幸せになりたい……」
 
 今まで重ならなかった唇が――、

「!!?!」

 重なった。

 それは丁度、頂上に来た瞬間で、時が……止まったように思えた。

 眩しい光が溢れる中、細められたダークブルーの瞳がきらきらと輝いてあたしを見ていて、あたしも見つめ返すことしか出来なくて。

 あたしはただ……この上なく美しい顔をした早瀬の長い睫が、小刻みに震えたのを見る。

 拒否感すら、すべての感情の芽生えが失われ、ただひたすら、しっとりとした熱い唇を押しつけるだけのキスに甘んじて。

 観覧車が下り始めると、ゆっくり唇が離れたが、置き土産とばかりに啄むようにもう一回触れると、完全に離れた。

 首から力が失われ、崩れ落ちそうになる身体を、早瀬が抱き留める。

「……」

「……」

 とくとくと、心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 あたしから詰る言葉が出てこなくて、むしろ化粧が崩れた顔が気になって、恥ずかしいと自分の体面しか気にならなくて。

 俯き加減の赤い顔を、早瀬からそむけることしか出来なかった。

 とくとくとく……。

 ありえないこんなこと。
 
 嫌じゃ無かった。
 たまらなく恥ずかしいなんて……まるで十代の乙女じゃない。

 キス以上のことをしているというのに、どうして唇が触れただけのキスでこんなにも……。

  
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