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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
 
 
 *+†+*――*+†+*

 
 観覧車から出て車に乗っている間も、元気なあたしの腹の虫は自己主張をし続けて。

 その度に肩を揺すって爆笑を続けるこの男から、あらゆる音を止めたいと思うのに、どうにもあたしの腹の虫は、餌にありつけるまでは鳴き続ける魂胆のようだ。

 我ながら情けない結末と思えども、キスをしてしまった――その居たたまれない艶に満ちた余韻を、笑いでかき消してくれてよかったと思う。

 早瀬がキスをしたのは、観覧車の頂上でキスをすれば幸せになれるだとかいう、ジンクスによるものだということは、あたしだってわかる。実際そんなことを言っていたし。

 それでも……、夜風にあたっても消えぬ唇の熱。
 九年前のように、早瀬を意識してしまったあたし。

 早瀬に少し軟化しようと思った途端、垣根を壊される。
 あたしとしての領域を踏み越えられる。

 九年前、早瀬が弾いたピアノを聞いた時のように、警戒心を忘れてしまう。
 ……成長のない自分が恨めしくて。

 そんな感傷的な遊園地を後にして、回復した身体を動かして早瀬に促されるがまま駐車場へ行き、車はさらに夜の闇が溶けた景色を走る。


「クイーンズスクエア……いや、ランドマークタワーの上で食事しようか。どうせなら高いところから夜景見下ろして食ってやろうぜ。俺、実はランドマークタワーに行ったことねぇんだ。お前は?」

「あたし横浜自体、初めてなんですってば。名前は聞いたことありますけど」

「はは、そうだよな」

 ……なにが嬉しいのかわからないが、早瀬はとにかく嬉しそう。

 夜景が好きなんだろうか。
 それとも名所が好きなんだろうか。

 まるで観光客のようだと思いながら、早瀬に連れられるまま、よく名前だけは耳にするランドマークタワーというところに向かった。

 遊園地からそんなに離れていないのか、連なっているのか独立しているのかよくわからない……横にずらりと並ぶ建物を横に見て進むと、先頭にやけに背が高い……洋画で出るビルのような、上部にある凹みが近代的な外観の建物が建っている。

「あのでかいのがランドマークタワーだ」

 何階まであるんだろう。
 あまりに窓の数が多すぎて、見当がつかない。
 
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