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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
車は横のPの看板から地下駐車場へと進んだ。
なんでも洗車場まで完備しているらしい駐車場らしいが、別に大理石で出来ているものではなく、どこにでもあるようなコンクリート剥き出しのものだ。
「腹減ってるだろ? まっすぐスカイラウンジに行くか」
「お任せします」
早瀬とエレベーターに乗る。
これから行こうとしている一番上のレストランは、なんと六十階!
「五十九階分、なにが入っているんですかね?」
「ああ、ホテルだからここ」
「ああ、だから……」
ホテル?
「あ、あの……」
「硬くなるなって。家に帰りたいんだろ?」
「はいっ!!」
「元気よく返事するなよ、……ちっ」
なにやら不満そうな舌打ちの音が狭いエレベーターに響き渡った。
よかった。
今日は帰れる。
そう思ったら、また腹の虫が騒ぎ出して、早瀬の爆笑がとまらなかった。
スカイラウンジ「オリシス」
黒服の店員さんに案内されて中に入ると、暗い照明の店内、一面硝子張りで横浜港の夜景が広がり、思わず感嘆の声を出してしまった。
観覧車からの景色も素敵だったけれど、夜景を絨毯のようにして建物の高いところで水平に歩いているから、これは贅沢すぎる。
案内されたのは窓際の席だった。
ふかふかな椅子に座ると、早瀬はメニューを開いた。
「なにがいい? 肉? 魚?」
早瀬の顔が黄色い照明に照らされる。
「食べれるものならなんでも!」
切実な腹の内を察して、早瀬は笑いながら適当に頼んでくれた。