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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「……抱かせて?」
この男……観覧車の時から決定事項にする気で、あたしの判断能力鈍らせるために飲ませたのでは?
「帰ります!」
「いいなあ、そのワイン」
早瀬が手を伸ばしてあたしのワイングラスを奪おうとする。
「駄目ですよ、あなたには飲み物があるでしょうが」
「これノンアルコールだから味気なくてさ。俺も、お前と一緒に酔いたいんだけど」
「駄目です!」
「鬼畜」
「あなたほどではないです」
ほんわりといい気分だ。
これがワインの酔いなのかしら。
「お前さ、他の男の前で飲むなよ」
「は?」
「……食べたくなるから」
再び、吹き出しそうになった。
「レストランで怖いこと言わないで下さい」
「じゃあもっとはっきり言えばいいのか? セック「うわわ、なに言うんですか!」」
慌てて早瀬の口に手のひらをつけると、早瀬が瞳を揺らしてその手のひらに唇をあててきた。
驚いて手を引こうとするあたしに、手を動かせないように手首をがしっと掴むと、顔を傾けながら舌を這わせてくる。
わざと細めた目だけを向けてくるその表情が悩ましくて、ここがレストランということを忘れて、愛撫されてい気分になる。
「感じるなよ、アホ」
笑いながら早瀬は、あたしの指を含んだ。
こんなひとがいるところで、こんなこと……。
それでも彼の表情とされていることを、気持ちいいと思ってしまうあたしは、ワインと雰囲気に酔ってしまっているのだろう。
煌びやかな夜景と端正な早瀬の顔が、どうしようもなく愛おしく感じてしまうのは、ワインのせい。
「お待たせ致しました」
離れた熱が寂しく思うのも――。
料理が次々と運ばれる。
メインの肉料理は子羊の肉だった。柔らかくて蕩けるように思えるお肉に舌鼓を打ちながら、饒舌となって早瀬と会話する。
その時、ジャーンとシンバルの音が聞こえて驚いた。
グランドピアノとコントラバスとドラムとギターがスタンバイしている。そこにアルトサックスが混ざる……ジャズ演奏が始まるようだ。
カチカチカチとドラムのスティック同士が叩かれる音がして、ドラムの左上のシンバルであるハイハットの抑えた音がシャカシャカと聞こえて来た。