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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice

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トイレでの記憶は、その後はぷつりと途切れ、気づけばチャプチャプとした水の音と甘い匂いに包まれて、とにかく気持ちいい気分で目覚める。
「あ、起きちまった? 気分はどうだ?」
重い瞼を上げると、 穏やかな照明の光を纏うようにして、完全ストレートとなっている濡れた髪先から、水滴を垂らす早瀬が微笑んでいた。
「いいぞ、寝てて。ちゃんと運んでやるから」
ふっと早瀬は笑うと、ちゃぽんと音をさせてあたしの肩に回されていたその手で、あたしの頭を支え、そのまま早瀬の首元に顔を埋めさせた。
「ん……」
心地よい声。心地よい肉体。心地よい体温。
すべてが心地よくて、またうとうととしてしまってから、はっと目覚める。
「ここ……どこ!?」
心地よいってなに!?
「風呂。さっぱりしたか?」
一面、白いタイル。
銀のシャワーヘッドが見える。
丸い浴槽の中に早瀬と裸でふたり。
ただ救いは、ジャクジー風呂となっていたために、波打つ水面が裸の輪郭をことごとく隠していることか。
「な、なんで……っ」
「お前吐いたの覚えてる? 服はホテルのクリーニングサービスに、脱がせた身体は俺が洗った」
記憶がゆっくりと戻る。
あたし、とんでもない失態を見せてしまったんだ。
「あたし……っ」
「人間は完璧じゃねぇんだよ。俺がフォローしておいたから気にするな」
「だけど……っ、あたしあなたに合わせる顔がないです……っ」
「俺に悪いと思うなら、その言葉遣いやめて? 会社は仕方ねぇから認めるけど、お前とふたりの時は、お前の素の言葉を聞きてぇんだ」
「これも素ですけど……」
「意識的に線を引かれている。だからそれが嫌だ。本当なら名前で呼んで欲しい。……駄目?」
「それは……辛い、です。じゃあ……言葉遣いだけ、直すから」
「そうか……」
早瀬はあたしの頭に頬を乗せてくる。
いつも強引な俺様なのに、なんでこんなに甘えたなの、今は。
……あたしも甘えたくなってきちゃうじゃない。
暖かいお湯に、身も心もポカポカしていて。

