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エリュシオンでささやいて
第4章 Bittersweet Voice
「そうだ。身体、洗ったって……」
忘れてはならないポイントだ。
今のあたしは、事後だという。
「今さらだろう? 何度お前を抱いていると思ってるんだ」
「……っ」
「ああ、そんな顔するな。俺、お前の中に入りたいの、抑えてるんだぞ? 俺煽ってどうするんだよ」
……ストレート過ぎるけど、抑えてくれていたんだ。
「気分はどうだ? まだ気持ち悪い?」
「気分はいい。おかげさまで……」
「よかった」
この優しい眼差しに慣れなくて。
……九年前、愛されていると錯覚した眼差しとよく似ているから。
「ええと、あたしもう上がる……」
「駄目。もっと居てくれよ、俺の横に」
早瀬はそう言うと、あたしの額に唇をあてた。
唇……。
熱い湯の中で、ぼんやりと思い出す。
吐いて汚い唇を、早瀬は二度口づけた。
それを思い出すと、胸がきゅっと絞られる心地となって身じろぎをした。
「どうした?」
「……口、ちゃんと漱(すす)いだ?」
「お前の話?」
「いえ、あなたの話」
「なんで?」
ああ、なんで早瀬の声はこんなにも艶めいているのだろう。
浴室の反響効果もあるだろうけれど、セックスの最中のような声音で、ひと言で言えば『エロい』。
「だって汚い……」
「だからさ、いいのお前は。あまりへんなこと言うと、またキスしちまうぞ」
早瀬の片手がのびて、あたしの両頬を押した。
「はは、たこちゅう」
「や、ちょっ……ほっぺ押さないで……っ」
「………」
「………」
あたしの頬から早瀬の手が引いた。
代わりに、小刻みに揺れる……深い青の瞳に吸い込まれてしまう。
湯あたりしたように、身体が火照って頭がくらくらする。