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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
迂闊に踏み込んでいいのかわからないあたしが黙っていると、やがて早瀬が発声する。
「なあ、このまま会社にいかね? いいじゃん、服」
「だから、女心をわかって下さいってば。みすみす攻撃の材料差し出しても平気なほど、面の皮厚くないんですって」
虐める方が悪いのか、虐められる方が悪いのか。
あたしはどっちもどっちだと思う。
虐められる方にもう少し隙がなかったら、免れる虐めもあると思うんだ。
だからといって、虐めていい話ではないけれど。
だからあえて言われるとわかっていることをしたくない。
「じゃあ、ウインドウショッピングするか。俺がお前に似合いそうなの買ってやる」
「要りません! お金は節約して下さいよ、老後のために蓄えて下さい」
「老後って……。なに、お前老人ホームでも今から見つけたい口?」
「そこまでにはなってませんが、自分が老後に困らない生活はしたいです」
「……結婚、してぇの? 相手が面倒見てくれるんじゃね?」
「そういう奇特なひとが現われませんから」
なんで早瀬とこんな話。
普通に出来るくらいには、きっとあたしのことなどなんとも思ってないんだろうな。
「……もし。もしもの話さ」
「はい?」
「十年後あたり、お互いフリーだったら……考えね?」
「なにを?」
「結婚」
信号で停車すると、こちらを向いたダークブルーの瞳が揺れていた。