この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
あたしは目を細めて言った。
「フリーの意味、わかってます? 結婚相手がいないのが、フリーなんでしょう? それにあなたとあたしは違いますから、あなたはそんな心配なくても……」
「そうじゃなくて……」
「?」
「いや、だからさ……」
なんで顔が赤くなる要素があるんだろう。
「いや、いい。俺も未来はどうなっているかわからねぇのが情けないところだし。うん、今はこの件はなしで。その時考えよう。あ、白紙じゃなくて後々の話ということで」
「……はぁ」
なんだろう。
「よし、じゃあお前の家まで送ってやる」
「いいですよ、どこかで下ろして下されば」
しかし車は速度を上げて走るばかりで、気づけばタクシーのようにあたしの家の前に横付けだ。
あれ、あたし家がどこにあるのか話したことがあったっけ?
「じゃあまた会社で。ちゃんと家に帰って、服、着替えてから会社に来て下さいね」
「ん……」
なにか、面白くなさそうだ。
ドアを開けて出ようとしたら、忘れ物と言われて振り返る。
すると腕を引かれて車の中に頭を突っ込む形となり、そこに早瀬が抱き留めるようにして、顔を傾けてキスをしてくる。
完全不意打ちを食らってなされるがままになってしまうあたしに、早瀬は首にもちゅっと唇をあてて言う。
そこから挑発的な目を向けて。
「待ってていい?」
「え?」
「俺は、服どうでもいいんだわ。それよりお前、顔色がやけに青いのが気になる。キスしても、あまり赤くなんねぇし。唇も冷てぇぞ?」
唇に早瀬の長い指が触れられる。
心配そうな眼差しに、ドキンと鼓動が大きく鳴った。
「な、ななな! あ、あたしは元気ですので! おひとりお先にどうぞ、ではさらば!」
完全テンパった状態で、敬礼してしまうあたしに早瀬はククと笑って手を振って、待つといったくせに車を走らせいなくなるから、あたしは建物の中に入った。