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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

 あたしは目を細めて言った。

「フリーの意味、わかってます? 結婚相手がいないのが、フリーなんでしょう? それにあなたとあたしは違いますから、あなたはそんな心配なくても……」

「そうじゃなくて……」

「?」

「いや、だからさ……」

 なんで顔が赤くなる要素があるんだろう。

「いや、いい。俺も未来はどうなっているかわからねぇのが情けないところだし。うん、今はこの件はなしで。その時考えよう。あ、白紙じゃなくて後々の話ということで」

「……はぁ」

 なんだろう。
 
「よし、じゃあお前の家まで送ってやる」

「いいですよ、どこかで下ろして下されば」

 しかし車は速度を上げて走るばかりで、気づけばタクシーのようにあたしの家の前に横付けだ。

 あれ、あたし家がどこにあるのか話したことがあったっけ?

「じゃあまた会社で。ちゃんと家に帰って、服、着替えてから会社に来て下さいね」

「ん……」

 なにか、面白くなさそうだ。

 ドアを開けて出ようとしたら、忘れ物と言われて振り返る。

 すると腕を引かれて車の中に頭を突っ込む形となり、そこに早瀬が抱き留めるようにして、顔を傾けてキスをしてくる。

 完全不意打ちを食らってなされるがままになってしまうあたしに、早瀬は首にもちゅっと唇をあてて言う。

 そこから挑発的な目を向けて。

「待ってていい?」

「え?」

「俺は、服どうでもいいんだわ。それよりお前、顔色がやけに青いのが気になる。キスしても、あまり赤くなんねぇし。唇も冷てぇぞ?」

 唇に早瀬の長い指が触れられる。

 心配そうな眼差しに、ドキンと鼓動が大きく鳴った。

「な、ななな! あ、あたしは元気ですので! おひとりお先にどうぞ、ではさらば!」

 完全テンパった状態で、敬礼してしまうあたしに早瀬はククと笑って手を振って、待つといったくせに車を走らせいなくなるから、あたしは建物の中に入った。
 
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