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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
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ドアを開けてエリュシオンに入ると、受付に大輪の花である女帝がいない。
美保ちゃんがぼけっと座っているだけだ。
ただ、なにか奥の一階がざわついていて、本能的に嫌な予感を感じ取った。
そんなやけに緊張した空気を裂くのは、もうひとりの最年少の受付嬢の声。
「ああ、早瀬さん。お疲れ様です」
……あたしもいるんだけど、美保ちゃん。
今年入ったばかりの新人に、まるでいないものとして扱われたようだ。
「大変なんですよぅ」
「お疲れ様、美保ちゃん」
あたし、今まで色々不当な虐められ方をしてきたけれど、それでもエリュシオンの一社員として正々堂々としてきたつもり。
その上で非があるのなら認めるけど、
「美保ちゃん、お疲れ様」
入ったばかりのあたしのことを知りもしない子に、不当に扱われる覚えはないの。
礼儀は礼儀!
まがりなりとも主任は、後輩を育てる責務がある!
「お……ツカレサマデス」
隣で早瀬がぴゅ~と口笛を吹いたのを、キッと睨み付ける。
「で、なにがあった?」
早瀬も異変を感じたらしく、怜悧な目を細めて尋ねた。
それに僅かに怯えたようにしながらも、なにかあたしを詰るような眼差しで、美保ちゃんは言った。
「HADESプロジェクトが盗まれたんです」
「盗まれた?」
「はい。社内の誰もが知らなくて、突然今日情報が流れてきた時には、マスコミ各社に情報が行き届いていて」
美保ちゃんは、明らかに敵意を向けてあたしに言った。
「〝オリンピア〟からHADESが誕生しました、今日」
「オリンピア……オリンピアって!!」
青くなるあたしに、美保ちゃんは冷たい顔で言った。
「上原さんの同僚がいる、旧エリュシオンの会社です」
どうして――!!