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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

 *+†+*――*+†+*


 ドアを開けてエリュシオンに入ると、受付に大輪の花である女帝がいない。
 美保ちゃんがぼけっと座っているだけだ。

 ただ、なにか奥の一階がざわついていて、本能的に嫌な予感を感じ取った。

 そんなやけに緊張した空気を裂くのは、もうひとりの最年少の受付嬢の声。

「ああ、早瀬さん。お疲れ様です」

 ……あたしもいるんだけど、美保ちゃん。

 今年入ったばかりの新人に、まるでいないものとして扱われたようだ。

「大変なんですよぅ」

「お疲れ様、美保ちゃん」

 あたし、今まで色々不当な虐められ方をしてきたけれど、それでもエリュシオンの一社員として正々堂々としてきたつもり。

 その上で非があるのなら認めるけど、
 
「美保ちゃん、お疲れ様」

 入ったばかりのあたしのことを知りもしない子に、不当に扱われる覚えはないの。

 礼儀は礼儀!
 まがりなりとも主任は、後輩を育てる責務がある!

「お……ツカレサマデス」

 隣で早瀬がぴゅ~と口笛を吹いたのを、キッと睨み付ける。

「で、なにがあった?」

 早瀬も異変を感じたらしく、怜悧な目を細めて尋ねた。
 それに僅かに怯えたようにしながらも、なにかあたしを詰るような眼差しで、美保ちゃんは言った。

「HADESプロジェクトが盗まれたんです」

「盗まれた?」

「はい。社内の誰もが知らなくて、突然今日情報が流れてきた時には、マスコミ各社に情報が行き届いていて」

 美保ちゃんは、明らかに敵意を向けてあたしに言った。

「〝オリンピア〟からHADESが誕生しました、今日」

「オリンピア……オリンピアって!!」

 青くなるあたしに、美保ちゃんは冷たい顔で言った。

「上原さんの同僚がいる、旧エリュシオンの会社です」

 どうして――!!
 
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