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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
なにをやっても開かない、開かずのドアに憤るあたしは、艶やかなガラスにベタン、ベタンと両手の手のひらをつけて、背伸びをして曇りガラスではないところから、中を覗いた。
「いる……」
奥で人の影が見える。
「いるじゃない」
ムカムカ。
まさか、こうして文句つけられるのわかっているから居留守とか?
ムカムカムカ。
あたしは、ガラスが割れない程度に(強化硝子だろうけど)、ガンガンと叩いて、「すみませーん」と声を張り上げた。
出てこい!!
あたしは、怒っているんだから!!
生理による憂鬱さは、憤慨にすり替わる。
すると、誰かが近づいてきた。
見覚えある……あたしのふたつ年上で、可愛がってくれた女性……笠井真理絵だ。
目鼻立ちが大きく髪をまとめ上げている彼女は、高校時代陸上部で鍛えた足を持つ、快活なひと。根っからの体育系で、彼女の説得をもってもあたしがオリンピアにいかなかったことを、彼女に散々と詰られたものだ。
真理絵さんが来たのか。
あたしからは、彼女が見えるが、彼女から見ればあたしはきっと、目から上しか見えていない異様なもの。
カチャリと鍵が開く音がして、ドアを手動で引いた真理絵さんが顔を出す。
「申し訳ありませんが、今日……」
そして言葉を切ったのは、あたしがいることに気づいたからだ。
「お話が」
「帰って」
慌ててドアを閉めようとする真理絵さんに、足を差し込んだあたしはぎりぎりとドアで挟まれながらも、渾身の力で空いた隙間に手を入れてドアを開き、なんとか中に入った。
「な、不法侵入っ!!」
騒ぐ真理絵さんの声に、奥からぞろぞろとやってきた。
……見慣れた面々。
懐かしい面々。
いるんじゃない。
「話があって来ました」
「帰れ!」
「追い出せ!」
「塩を撒け!!」
「あたしの話を聞いて下さいっ」
「こっちはねぇよ」
「警察に電話」
「誰、このひと」
むかつく、むかつく、むかつく!!
「話を、聞け――っ!!」
叫ぶと、しーんと静まりかえった。