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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

 日頃、あたしは大声を出すことはない。
 どちらかと言えば聞き手に回る。

 だから発言する時ぐらい、聞いてくれと叫んでしまったのだったが、あたしを知る連中には、インパクトがあったようだ。

「HADESはエリュシオンがプロジェクトを組んで企画運営をしていたもの。それがなぜ、オリンピアで同じHADESが誕生することになったんですか」

 あたしは、渋い顔を見合わせる元同僚達に言った。

 激情が口から迸るようだ。

「オリンピアは胸を張って、至高の音楽を届けていると、そう言い切れるんですか!?」

 かつて――色々と音楽について話し合った仲間だ。
 前社長を慕い、その教えに感銘を受けた者達だ。

「一丸となってひとのものを横取りして、あなた達が求める音楽とは、一体なんなんですか!」

 ……裕貴くんのことを思い出した。

 曲をパクられ仲間を奪われていた彼を救ったのは早瀬だ。

――音楽を、冒涜しないで頂きたい!

 今、早瀬が裕貴くんと同じ立場にいる。

 早瀬のコンセプトが理解されないまま、おかしな方にHADESが動き出してしまうというのなら、今度はあたしが早瀬を守る。

「音楽を、冒涜しないで!」

 同じ、音楽に携わる者として、こんなやり方はあたしも認めない。

 たとえ元仲間であっても、あたしが二度と踏み入れたくなかった領域だとしても、それでも人間、そこに足を踏み入れてでも、やらないといけないことはあるんだ。

 それが、今――。

「だったらそっちはどうなんだ。悪名高いエリュシオンは」
「そうだ、そうだ。金に物言わせて、弱者を食い物にして」

 ……適当に、お金儲けになる仕事をして大きくなっているのが今のエリュシオン。ぎりぎり法律に触れないだけの仕事をしていることもあるらしいことは、あたしも薄々感じている。

 そこは、言われても仕方がないところがある。

「会社では無くて、あなた達はどうなんです! 前社長の教えは!?」

 すると皆が口々に怒った。

「お前が、社長のことを持ち出すな」
「裏切ったくせに」
「敵のところに残ったくせに」

 どうすれば――。

 ……怯むな、柚。
 なにを言われても、HADESを盗んだ人達に怖じ気づくんじゃない!!
 
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