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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「帰れ!!」
「もう二度と来るな!!」
「息するな」
……泣きそう。
彼らと昔、笑いあっていたというのに……!!
握った拳がふるふると震える。
泣くものかと噛みしめた唇が震えている。
孤立無援。
あたしは、どこにいても。
だけど、負けるものか。
「皆、やめろ」
制するように口を開いた男性は、あたしの上司だった……朝霞要(あさか かなめ)だった。
いることすら、気づかずに居て。
――よろしくな、上原。
朗らかで優しくて、おどおどしていたあたしに手を差し伸べてくれた、旧エリュシオンの元主任は、二年前に独立を真っ先に宣言して行った、あたしより四歳年上の男だ。
――オリンピアに、一緒に行こう。
筋肉質の体格いい身体に、アッシュブラウンのサイドを刈り上げた髪。
どこまでも爽やかに整った、端正な顔。
爽やかなスポーツマンのような彼は、頭がいいだけではなく話術も巧みな上に、とても優しいひとで、社長や相手に可愛がられていた。
実質彼の力で旧エリュシオンは成り立っており、朝霞さんは社員からの人望も厚かったため、皆がこぞってやめて彼についていった。
営利を追求したエリュシオン……現社長のやり方に、異議を申し立てたのは彼だった。彼が、前社長の遺志を引き継ぐ会社をたて、社長となった。
彼の誘いを断って、あたしはエリュシオンに残った。
彼の元で展開される、前社長の教えを受け継ぐであろう会社に行かずに。
そりゃあ行きたかったよ。
それまでのように、和気藹々と仕事をしていたかったよ。
だけどあたしは――。
どんなに孤立して仲間がいなくても、それでも至高の音楽を、前社長の教えてくれたその精神だけは失いたくないと、社長の作ったエリュシオンの名を守るために、あたしなりに頑張ってきたのだ。