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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
  

「上原は、HADES関係者なのか?」

 彼なら、あたしの話を聞いてくれると思った。

「いいえ。ただ……HADESは、うちの早瀬の発案した企画なんです。音楽を真摯に追求したものなんです。彼なしでは、HADESは成り立たない」

「早瀬とは、早瀬須王か?」

 あたしは朝霞さんに頷いた。

「彼のものなのか、HADESは」

「そうです。朝霞さん、早瀬に返して下さい。HADESは、早瀬がいてこそ、至高の音楽を伝えることが出来るんです」

 朝霞さんはあたしに向いて言う。

「上原は、エリュシオンの一員としてここに来たのか? それとも早瀬須王の使いで?」

 あたしはまっすぐに朝霞さんを見て答えた。

「上原柚一個人としてお願いにあがりました。あたしが信じる至高の音楽の実現のためには、早瀬須王が不可欠です。彼の音楽を、会社の営利に用いないでください。それなら、二年前から……、営利目的の方針を打ち出した現エリュシオン社長と同じです」

 そして頭を下げる。

「早瀬須王を、公正に評価して下さい。彼がしようとしていることを邪魔しないで下さい」

「きみは……」

 朝霞さんが、あたしの肩をぽんと叩いた。

「早瀬須王が好きなの?」

「あたしは、早瀬須王の音楽が好きなんです!」

 ちょっとムキになってしまったけれど。

 朝霞さんは真理絵さんと顔を見合わせて言う。

「今、笠井と話していたところだ。『勝手にエリュシオンの情報を抜いてオリンピアの名で公に出したのは、誰だ』と」

「え?」

「朝霞さん、そんなこと、この裏切りものに言わなくても」
「そうですよ、こいつは仲間じゃない」
「そうだ、そうだ」 



「黙れ!」

 朝霞さんは低い声で一喝する。

「上原が捨て身になるほどの早瀬の音楽は、俺達も認めているだろう。早瀬須王がしようとしていた音楽であるのなら、尚更話は重大だ。オリンピアは、早瀬須王を敵に回したくない」

 朝霞さん――っ!!
 
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