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エリュシオンでささやいて
第2章 Lost Voice
 

 *+†+*――*+†+*


 早瀬に遅れて小会議室を片付けてから戻ると、育成課の横に用意された応接ソファで、ふんぞり返って座る早瀬と、早瀬にぺこぺこと頭を下げる課長が見えた。

 言っちゃなんだが、月とすっぽん……豚に真珠。

 どの課からも早瀬に色目を使う女性社員、羨望の眼差しで見つめる男性社員が視界に入る。

 悔しいほど、どの課も早瀬の影響力をとても強く感じる。

「いや~、さすがは早瀬先生! ええ、私も〝彼〟が一番いいんじゃないかなと思っておりまして!」

 嘘つけ! 一度も耳にしてないだろうに。

「先生自ら選ばれたとは、申し訳ない! 上原は無能なもので、歌の善し悪しがわからんのですわ。先生にご迷惑を……ああっと、上原。お前今日残業な、明日の会議のレジュメ作り」

 あたしは、公然とした残業にほっとした。

――今夜、八時。いつものホテルで。

 これで奴も今日は諦めるだろう。
 よし、今夜は頑張って残業をしちゃうぞ!!

 今日財布忘れて小銭しかなかったけれど、ラッキーだった。 

 降って湧いた幸運に感謝して、いつも以上に快く残業を了承する返事をした途端、早瀬が言う。

「上原チーフの意見を聞きたい。あなたは私や渡瀬課長同様、本気で〝彼〟を推すか?」

 早瀬は自分が持ってきたテープを持ち上げて見せると、そう問うた。

「HADESプロジェクトに、彼が相応しいとあなたも本当に思ったのか?」

 皆の視線を浴びながら、わざと聞いている。

 早瀬はその立場を利用して、彼と上司がいいと言ったものに対しての是否をあたしに求めているんだ。

 強い者に巻かれて流されるか、それとも自分の意見を言えるか。
 その意見に自信を持てるか。

 こうやって、愉快そうにダークブルーの瞳を細めて、高飛車に。

 この悪魔!
 あたしがここでどんな立場にいるのかわかってて!
 
 しかもプロジェクトの概要はさわりしか知らされていない。
 突然課長に、早瀬からの指名でデモの選者にされただけだ。

「どうだ、上原チーフ」

 だけど、そんな理屈は通用しない。
 そう、冷ややかなダークブルーの瞳があたしに告げているから。
 
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