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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「勝手にやった奴らがとんずらして、こっちも責任だけ負わされる形で、大変なことになっていてね。無断で……上原? おい、上原!?」
ひとつの尊敬する音楽の元、話せばわかる。
音楽は万国共通語、そして早瀬は、早瀬の作る音楽は、やはりどんな敵対している立場である会社でも、心を打つものだと思った時、貧血が祟って意識が真っ黒になった。
「おい、上原! しっかりしろ、上原!」
ああ、さすがは朝霞さんだ。
前社長が見込んだだけあるひとだ。
あたしには雲の上の存在で、下っ端まで気に掛けてくれる彼が眩しくて、頼もしくて仕方がなかった。困ったことがあると、皆で朝霞さんを頼った。
彼は上に立つに相応しいひとだ。
早瀬。
あなたの音楽、諦めないで。
純正律で紡ぐ音楽、あたしがプロジェクトに必要だと言った音楽を、心の赴くまま作って欲しい。
あたしだって、楽しみにしてるんだ。
だから一生懸命、ボーカル探していたんだ。
朝霞さんがいるのなら、きっと、きっとHADESは、おかしな方向に独り立ちしないから。
「早瀬……」
早瀬がやってきた音楽を、朝霞さんが認めてくれていて本当によかった……。
「あんなにおとなしかったきみが、悪意の巣窟に乗り込んでくるのは、会社のためじゃなくて、あの、早瀬須王のためなのか?」
……その時、朝霞さんが目を細めたことを、あたしは知らない。