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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

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 目が覚めた時、ソファの上に居た。

 見慣れない応接室。
 見慣れない観葉植物。

「ここは……?」

 そこであたしは、オリンピアに乗り込んだことを思い出す。
 生理中だったことも助長して、興奮のあまりに貧血を起こし、急に意識が漆黒に染まった闇に引きずり込まれたかのようにして、意識を失ってしまったらしい。


 ここは、オリンピアの応接室なのだろうか。
 身体の上には、大きな男性の背広がかけられている。 

「どなたの?」

 まだ鈍い頭をフル回転させて、最後に記憶あったのは――。

「朝霞さんの?」

 朝霞さんの優しい笑みを思い出す。

 背広から柑橘系の香水の香りがするから、間違いないだろう。

 よかった。
 朝霞さんならきっと、話をあるべきところに収めてくれる。

 彼や真理絵さんの関与しないところで、暴走したオリンピアの社員がいたんだ。多分複数。

 それは彼らの独断なのか、第三者の示唆があったのかはわからないが、朝霞さんが調べ上げて、きちんとしてくれる――。

「本当によかった。話がわかるひとで……」

 今だから言えるが、ちょっぴり……恋寄りに憧れていた時期もあったけれど、真理絵さんが朝霞さんを好きだということを知ってから、深く考えないようにした。

 恋寄りといっても、早瀬とのことを引き摺っていて、亜貴のおかげでぎりぎり男性嫌いにならずにいた程度だったから、性別を超えた有能な人間に対する尊敬と羨望が九割以上。だから彼がエリュシオンを辞めても平気で。

 オリンピアを覗きに来た際に、朝霞さんはいなかったけれど、皆から悪意を向けられたのを知って、もう過去には戻れないと悟り、そのまま携帯ショップに赴いて、今までの電話をやめて新規の番号のものに変えたのだ。

 二年ぶりに朝霞さんを見ても、懐かしさや信頼感は蘇るけれど、恋心は全くなく、それなら早瀬に再会した時の方が複雑な心境で動揺した。

 人間一期一会とはいうけれど、あたしのように縁を切ったと思った複数の人間にまた邂逅することもあると思えば、運命とは不思議なものだと思う。
 
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