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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
  

「さ、ちゃんと話合いしないと……」
 
 背広を持って立ち上がった時だった。

「ここなんだな!?」

 聞き慣れた声と共に、バタンと大きな音をたててドアが開き、背広姿の男が入って来たのは。

 ダークブルーの、くせ毛のような無造作ヘア。
 すっと目尻が伸びた切れ長の目、髪と同じダークブルーの瞳。

 そして、女泣かせの泣きぼくろ。

 無駄にフェロモンを撒き散らしている、麗しき王子様顔の早瀬が、颯爽と入って来た。

 あれ、ここ……エリュシオンだったっけ?

 目をぱちくりしているあたしに、早瀬は微かに安堵した顔をした。

「大丈夫か、帰れる?」

「は、はい。でもどうして……」

 すると早瀬の後ろから、ワイシャツ姿の朝霞さんが爽やかな笑みを浮かべて言った。

「ああ、俺が呼んだよ。きみが倒れた時、バックが落下してきみのスマホが転がったんだ。画面に彼のLINE通知がたくさんあったから、失敬してきみのLINEで倒れたことを彼にお知らせしたんだよ」

「あ、そうなんですか。ありがとうございます、朝霞さん」

「どう致しまして。でも体調よくなったならよかったよ」

「おかげさまで。色々ご迷惑おかけして、本当にすみません」

「あはは。色々とやらかしてくれた、昔を思い出すけどね。あれからはちょっとは成長したのかな」

「しました!! ……多分」

「あはははは。多分ってなんだよ、多分って」

 和やかな雰囲気のあたし達を、じぃっと。とにかく、じぃぃぃぃっと、なにか言いたげに早瀬が見ていた。

 ああ、そうだ。
 早瀬にもお礼言わなきゃ。

「お忙しいのに、あたしのせいですみません!」

 ただいまHADESプロジェクト緊急会議中だったはずなのに。

「いや、それはいいけど……。これ誰の?」

 尋ねられる前に、奪い取られた背広。

「ああ、俺のだ。ありがとう」

 ……なんだろう、この険悪な空気。

 早瀬がなにか陰湿なオーラを放ち、一方朝霞さんは、どこまでもにこにことキラキラオーラで。

 ……朝霞さんが爽やかイケメンだから、僻んでいるとか?
 王様は他国の王様を認めたくない狭量の持ち主とか?
 
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