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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「だとすれば、あなたにHADESは付属する。あなたがどこに行こうと、HADESは守られる。あなたが歩く広告塔で、著作権だ。誰も侵害できない」
朝霞さんは絶大なる自信で笑う。
「上原さんと一緒に来ればいい。いい条件で、ちゃんと給料も出す。どうだろう、いい提案だと思うけど」
早瀬は――、
「断る」
その上を行く、超絶な自信漲(みなぎ)る笑顔で拒絶した。
「さすがは、悪名高きオリンピアの社長」
「は、早瀬さん!? オリンピアは……」
「半年前、倒産しそうな朝霞社長の会社を誰が救済しましたか?」
途端、笑みを無くした朝霞さんに、早瀬が超然として言うと、片手を伸ばしてあたしの肩を抱いた。
「それでわかったよ、色々と。悪いが、俺も上原もお前らの道具になるつもりはねぇ。来るなら、こんな姑息な手を使わず、正々堂々と来い。俺は、こんなことくらいで、負ける男じゃねぇから。……見くびるな」
「え? え?」
話が見えない。
だってこんな言い方、まるで――。
「朝霞さんはいいひとですよ? あのですね、厄介な社員がしでかしたことで……」
「はは。いいひとねぇ、いいひと。よかったな、朝霞社長。あんたの真っ黒な腹を見られまいと作りあげた話を信じられるほどに、上原が単純で。まあ、だから使い途があったんだろうけど。悪いが、上原経由でノコノコ呼ばれて来た俺ではあるが、そっちの手のひらの上で転がるつもりはねぇ。……帰るぞ」
「え、ちょ……朝霞さん、ねぇなにか誤解……」
しかし朝霞さんは、ため息をつくとこう言った。
「手強いなあ。早瀬須王のブランドを大きくさせたのは、音楽だけじゃないみたいだ。……わかっていて乗り込んできたその勇気に敬意を表して、今は引き下がる。また連絡するよ、上原」
「は? れ、連絡? あたし番号変えてますけど」
「LINEを見て俺に連絡するくらいだ。最低でも十五分あれば、お前自身の番号やアドレス帳情報はすべて、見れる。案外、俺の携番もチェック済みかもな」
「え……え!?」
「またね、上原。お大事に」
朝霞さんが、いつも通りの爽やかな笑顔で手を振った。
なにひとつ弁明することなく。