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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

「は……?」

 あたしひとり状況がわからず、肩に手を回したままの早瀬に押されるようにして、悪意と称賛半々の眼差しの中、オリンピアを後にしたのだった。

 ……この状況で笑える朝霞さんも、あたし達を黙って見つめる真理絵さんの目も、とても怖かった。
 





 再び、早瀬の黒い外車の中――。

 助手席にほぼ押し込まれた状況のあたしは、運転席に乗り込んだ早瀬に尋ねた。

「……え、と……どういうことですか?」

 エンジンがかかる。

「お前、まだわかんねぇのかよ。あの胡散臭い笑みを向ける朝霞っていう社長が、HADESを公表させたんだよ。あいつが仕組んだことだ」

「ええええ!? でも朝霞さんは、彼の知らないところで暴走した社員が……」

「まだ信じてるのか? 本当にお気楽な奴。それが本当なら、今頃その公表の撤回や取り消しにあくせくしてるだろうさ、一秒でも早く、無関係の事実をうちにでも伝えるだろう。仮にも上場会社のエリュシオンに喧嘩売ったんだ。知らなかったわからなかっただけで、すまされるわけがねぇ。責任など取るつもりはねぇよ、勝てると信じてる顔だ。問題は、なにに対して勝つ気でいるか、だ」

「で、でも朝霞さんとは初めて会ったんですよね?」

 まるで長年のライバルのように、知ったように早瀬は言っているけれど。

「ああ。会議中に、お前が心配していると思って、状況をLINEに流した。まるで既読が着かねぇと思ったら、ぱっとマークがついて。で、あの朝霞という名前でLINEが来たから、会議放置で飛んで来る羽目になった。あの分じゃ、俺が流した会議状況も見てるな、裏目に出た」

 あたしは、バッグの中に戻されていたスマホを取り出してLINEを見た。

 早瀬からは『HADES、潰す方向に進むかも』『オリンピアから取り戻す気もねぇらしい』『これは、なにか裏がある』などなどひと言ずつ。

 それに対して、あたしが出したことになっている右下の吹き出しには、『早瀬須王さん、初めまして。朝霞といいます。上原さんが倒れたので、下記の住所まで引き取りに来て下さいませんか? 十五分待ってもいらっしゃらない場合、上原さんは俺が頂きます』
 
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