この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「は……?」
あたしひとり状況がわからず、肩に手を回したままの早瀬に押されるようにして、悪意と称賛半々の眼差しの中、オリンピアを後にしたのだった。
……この状況で笑える朝霞さんも、あたし達を黙って見つめる真理絵さんの目も、とても怖かった。
再び、早瀬の黒い外車の中――。
助手席にほぼ押し込まれた状況のあたしは、運転席に乗り込んだ早瀬に尋ねた。
「……え、と……どういうことですか?」
エンジンがかかる。
「お前、まだわかんねぇのかよ。あの胡散臭い笑みを向ける朝霞っていう社長が、HADESを公表させたんだよ。あいつが仕組んだことだ」
「ええええ!? でも朝霞さんは、彼の知らないところで暴走した社員が……」
「まだ信じてるのか? 本当にお気楽な奴。それが本当なら、今頃その公表の撤回や取り消しにあくせくしてるだろうさ、一秒でも早く、無関係の事実をうちにでも伝えるだろう。仮にも上場会社のエリュシオンに喧嘩売ったんだ。知らなかったわからなかっただけで、すまされるわけがねぇ。責任など取るつもりはねぇよ、勝てると信じてる顔だ。問題は、なにに対して勝つ気でいるか、だ」
「で、でも朝霞さんとは初めて会ったんですよね?」
まるで長年のライバルのように、知ったように早瀬は言っているけれど。
「ああ。会議中に、お前が心配していると思って、状況をLINEに流した。まるで既読が着かねぇと思ったら、ぱっとマークがついて。で、あの朝霞という名前でLINEが来たから、会議放置で飛んで来る羽目になった。あの分じゃ、俺が流した会議状況も見てるな、裏目に出た」
あたしは、バッグの中に戻されていたスマホを取り出してLINEを見た。
早瀬からは『HADES、潰す方向に進むかも』『オリンピアから取り戻す気もねぇらしい』『これは、なにか裏がある』などなどひと言ずつ。
それに対して、あたしが出したことになっている右下の吹き出しには、『早瀬須王さん、初めまして。朝霞といいます。上原さんが倒れたので、下記の住所まで引き取りに来て下さいませんか? 十五分待ってもいらっしゃらない場合、上原さんは俺が頂きます』