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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
 

「あいつはそれについてどう言ってたんだ」

「朝霞さんはとても謙虚なひとで、主任如きが社長なんてと笑い飛ばしてました。二年前、今の社長が営利目的の方針を打ち出した時、一番憤って食ってかかったのが、朝霞さんでした。いつも優しくて穏やかなひとだったのに、あの時は豹変したように」

「………」

「だから、朝霞さんが独立してオリンピアを作ったことに対して、彼を諫めるひともいなくて、逆に皆朝霞さんに同調してやめていきました」

「なんでお前は行かなかった?」

 思えば、早瀬にあたしのことを話すのは初めてかもしれない。
 早瀬に、あたしの過去は話したくなかったから。

「あたしも誘われたけど、あたしは前社長がエリュシオンを守って欲しいと言われたことが忘れられず、どんな形でも前社長が作ったエリュシオンに関わりたいと思って残りました。その結果が、裏切り者ですけどね」

 あたしは乾いた笑いをした。

「半年前」

 早瀬は言う。

「オリンピアが破産した」

「本当ですか、それ。だって今、営業しているじゃないですか」

「破産したが、ある音楽の協会が資金を援助して、オリンピアは助かったそうだ」

「それ、あたし初めて聞きましたけど」

「半年前、お前はそれどころじゃなかったろう」

 確かに、亜貴が大変で早瀬からお金を借りた時期だ。

「その協会の副会長が、現忍月コーポレーション副社長、忍月栄一郎だ。そして団体代表理事が、現MSミュージック社長、三芳英雄。ちなみに言えば、副会長はMSミュージックの専務理事に就いていて、三芳社長と懇意にしているらしい。三芳社長は副会長の金のなる木だ」

「え、忍月って……OSHIZUKIビルのあの忍月財閥の忍月ですか!?」

「ああ。ただ栄一郎というのは、コーポレーション社長であり忍月財閥現当主の甥にあたり、どちらも後を継ぎたくて躍起になっている」

「三芳社長に、そうできるほどの力があるんですか?」

 ただの成金のように思えたけれど。
 
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