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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「しかしよく知ってますね、朝霞さんのことを知らなかった割には、協会のこととか」
「一応俺も、その協会の理事だからな。まあ名前を貸しただけで顔出しには行ってはいないが、一応協会の動きは目を通す」
本当にこのひと、二十六歳なのかしら。
「そういえば、女帝と三芳社長が応接室にいるんでしたよね。なにか言ってましたか? やっぱり違約金支払えって? 示談の条件とかもなし?」
「あ、そういえば三芳親子に会ってねぇや」
「え」
「だからいったろう。朝霞からLINE入って十五分で飛出したんだって」
「じゃあもしかして、女帝諸共、あなたに会いたがっていたのなら、いまだ待ちぼうけ食らっているということ?」
「知らねぇよ。勝手に親子漫才してればいい。俺はなにも聞いてなかったことにする」
女帝と三芳社長が共謀していたのかどうかはわからないが、親子揃ってひたすら早瀬を待っているのかもしれないと思ったら、なんだか気の毒だと思ってしまった。
「話を戻すが、今のオリンピアは音楽のためではなく、協会のために働いているフシがある。それで今では、悪い噂ばかりが俺の耳にも届く。エリュシオンもひとのことを言えた義理じゃないだろうが」
「……っ」
「三芳社長が泣きついたところからの指示で、エリュシオンというより俺に対する宣戦布告に出たんだろうと俺は思ってる。俺を利用しようとしているか、排除か」
あたしは頷いた。
「ただ腑に落ちねぇのは、HADES公表に踏み切るための情報収集の速さだ」
「確かに、昨日の私憤が端を発しているのだとしたら、内部情報だとか引き抜きだとか、動きが速いですものね」
「ああ。昨日の横浜での件があろうとなかろうと、朝霞側にHADES情報が漏れていた可能性が高い。ということは、エリュシオンか外部協力者にスパイがいたということ。三芳がそれを知っていたか知らなかったかはわからんが」
それじゃなくてもエリュシオンはチームワークが取れていない。
皆で一丸となってさあ頑張ろうということがない。
誰かの仕事は誰かのもの。誰も興味を持たず、他人のふり。
定時五時になったら、帰り支度をするものが多く、社内で評価されるのは利益になる仕事を考えてとってきた者のみ。
そんな中で誰がスパイかなど考えようにも、該当者がたくさんありすぎる。