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エリュシオンでささやいて
第5章 Haunting Voice
「だろ? お前俺の身になってみな、こんな奴の下にいる気分」
「ああ、最悪。なあ、皆も思わね?」
「思う思う」
「チーフ、ここやめなよ」
「そうだそうだ!」
「賛成~っ!!」
二階の職場、部長・課長・チーフはふたりはプロジェクト会議中、唯一男性チーフであるライセンス課の雪村さんもおらず、たったひとりの上司であるあたしは、後輩であり新入社員でもあった社員に囲まれ、吊し上げられた。
オリンピアでもそうで、エリュシオンもそうで。
あたしには、居場所がなくて。
「早瀬先生に声かけられているからって調子にのってるよね」
「は、なに。早瀬先生の愛人なの、このひと」
「遊びだよ、遊び。顔は……まあまあいいから、玩具だよ」
「いいかなぁ? 最悪のブスじゃん」
「そうかな、ブスではないと思うけど……」
「黙れよ、ブス専」
「案外脱いだら凄いのかもよ」
「タルタロスのモグラに、脱げるところあるの? あはははは」
……生理で貧血の最中、上がいないからってここぞとばかりに。
これが、オリンピアを選ばなかったあたしの罪?
これが、オリンピアの変貌に気づかなかった罰?
消えちゃったよ……。
前社長が愛したエリュシオンが、どこにもないよ。
あの時の、一致団結して、至高の音楽を求めていたエリュシオンの姿は、どこにもない。
あたし、頑張ってたのに。
あたし無力で、あたしひとりは弱すぎて。
……だけど、エリュシオンもオリンピアも金や権力に目がくらんだというのなら、あたしだけはこんな上から目線の悪意に屈するものか。
あたしがしたいのは、至高の音楽を届けることなんだから。
あたしはまだ、それを成し遂げてない!!
頭に、昨日の早瀬が思い出される。
ギターを弾いていた、りす早瀬。
ピアノを弾いていた、早瀬。
彼が紡ぐ音楽は、あたしの心の変化をもたらした。
早瀬が大嫌いでたまらなかったあたしの心を絆したんだ。
そこまでの音楽を奏でられるのは、早瀬しかない。
それはどんな著名なあたしの家族ら音楽家でも出来ない。
早瀬の奏でる音楽だから――。